東芝、次世代技術でサムスン追撃 3Dメモリー量産、巻き返しの鍵に
東芝と米ウエスタンデジタル(WD)は15日、記憶用半導体「NAND型フラッシュメモリー」を製造する四日市工場(三重県四日市市)に建設した新第2製造棟の完成式典を行った。新棟では素子を積層し、容量を増やす次世代の3Dメモリーを量産する。東芝は3Dの量産技術で世界シェア首位の韓国サムスン電子などに出遅れている。メモリー事業は経営再建の柱に位置付けられており、巻き返しを図れるか注目される。
新たな競争ステージ
「世界最先端の四日市工場を基点にフラッシュメモリーでリーダーシップを発揮したい」
15日に四日市工場で開いた会見で、東芝の綱川智社長はこう意気込みを語った。新第2製造棟は3Dメモリーへの製品の切り替えを加速させる重要な製造ラインだ。
NAND型フラッシュメモリーは、これまで回路の微細化で容量を増やす技術で各社が競い合ってきた。だが、微細化が限界に達したため、競争のステージは3Dに移行している。
東芝は3月から新棟の一部ラインで積層数が48層の3Dメモリーの生産を開始。2017年度に3Dの生産比率を全体の5割、18年度には8割以上に引き上げる計画だ。メモリー事業の提携先だった米サンディスクを5月に買収したWDと共同で、今後3年間で四日市工場に約1兆4000億円を投資する。17年度には3Dの新棟を建設する。
一方、サムスンは1年半前に3Dの量産化に成功し、昨秋から48層のメモリーの量産を本格化させている。メモリー市場の回復やデータの需要増を見込んで投資攻勢を強めている。韓国メディアによると、サムスンは、東芝・WD連合を上回る2兆5000億円をメモリーに投資する計画だという。
今後の3Dメモリー競争について、米調査会社IHSマーキットテクノロジーの大山聡主席アナリストは「量産技術が重要になる」と指摘する。半導体製造装置メーカーの関係者からは「不良品が少ない歩留まり率で、東芝はサムスンや米マイクロン・テクノロジーとの差が大きく、量産が安定していない」との声も出ている。
半導体事業を担当する東芝の成毛康雄副社長は同日の会見で、「技術では負けていない」と述べたものの、量産技術の遅れは認めた。量産立ち上げの経験値があるサムスンに対し、東芝はこれから新第2製造棟で本格的に技術改善に取り組む。量産技術の確立が遅れれば、サムスンとの差が開き、世界シェア3位のマイクロンに抜かれる可能性もある。
投資体力に不安
また、懸念されるのが足元の財務状況だ。今後3年間の設備投資のめどはついたが、問題はその先だ。半導体事業は巨額投資が必要で、実行できなければすぐに取り残されてしまう。
東芝は自己資本比率を15年度末の6.1%から18年度に10%以上に引き上げる目標を掲げている。目標を達成しても低水準で、投資体力に不安が残る。仮に業績が回復しなければ、次の大型投資は難しくなる。
幸い市場環境はまだ明るい。メモリー市況は昨秋からのスマートフォンの販売の低迷で売価が下落したが、在庫調整が一巡し、最近は回復しつつある。さらに、メモリーを活用した記憶装置「ソリット・ステート・ドライブ(SSD)」の販売増も期待される。
20年にはデータ容量ベースの需要が15年の6倍に拡大する見通しだ。「東芝にとって、メモリー事業は成長ドライバー」(綱川社長)だけに、経営の足を引っ張ることは許されない。
再建に向けたもう1つの柱の原発事業の先行きが不透明なだけに、次世代の3Dメモリーの量産技術を確かなものにできるかが、東芝の将来を大きく左右しそうだ。(黄金崎元)
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