熊本地震から2カ月 テレビ報道に厳しい目 ネット拡散…謝罪も
熊本地震から2カ月。テレビ各局は発生直後から現地の状況を伝えてきたが、報道や取材に対する批判がインターネットを通じて拡散し、放送局が謝罪に追い込まれるケースも相次いだ。放送倫理・番組向上機構(BPO)にも多数の意見が寄せられており、災害報道のあり方に課題が投げかけられている。(三品貴志)
200件以上の意見
BPO放送倫理検証委員会によると、熊本地震報道については5月13日時点で200件以上の意見が寄せられ、特に、次のような批判が目立ったという。
「ヘリコプター取材の騒音などが被災者救助の妨げになっている」▽「避難所の報道車両のために避難者が駐車できなかったり、夜間の中継や照明で睡眠を妨害されたりしている」▽「行方不明者の搬出作業をテレビカメラが撮影するため、探索隊はシートで目隠しをしなければならず、作業の遅れにつながる」-。
一方、今回、関西テレビ(大阪市)の中継車が熊本県内のガソリンスタンドで、給油待ちの車列に割り込んだとして、ツイッターで批判を集めた。また、現地入りした毎日放送(同)のアナウンサーがツイッターに弁当の写真を投稿したことに、「食料が不足している中、現地で調達した」などとする批判が続出。ともに取材上のモラルが問われた事例で、両局はそれぞれ謝罪した。
「批判に鈍感な局」
5月13日のBPO検証委では、個別の番組について放送倫理上の問題を指摘する声は出なかったという。ただ、川端和治委員長は同日、「特にネットで、メディアの報道のあり方に対する目線がものすごく厳しくなっている」と記者団に説明。災害報道のあり方をめぐり、活発な議論が交わされたことを明かした。
公開された検証委の議事概要によると、ある委員は「被災地の当事者ではない人々がテレビ報道を見て、それをバッシングする傾向もうかがわれる」と指摘。また、「バッシングにセンシティブ(敏感)になり過ぎるのも問題ではないか」として、「取材者には、嫌われるのを覚悟で伝えるべきことは伝えるという姿勢がほしい」と、取材や放送が及び腰になることに警鐘を鳴らす意見もあった。
ネットでのマスコミ批判の高まりについて、ジャーナリストで元フジテレビ解説委員の安倍宏行さんは「東日本大震災以前から、ヘリ取材や被災者取材などへの批判はあった。スマートフォンが普及し、テレビ批判がツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて拡散しやすくなったが、テレビ局自身が批判に鈍感だった」と指摘する。
真摯な取り組みを
検証委の議事概要では、「厳しい目があることを自覚しながら、放送局として必要な取材を適切な態勢でやっていることを視聴者にきちんと伝えることも重要だ」などと、取材・報道活動そのものの広報強化をうながす意見も目立った。
放送局は原則、報道ヘリを航空法や各種ガイドラインなどに基づき、騒音や救助活動への影響に配慮して運用している。検証委では「ヘリ取材をすべて否定してしまうと、被災地の状況が把握できなくなってしまう一面もある」とする意見も出たが、実際の態勢や目的を丁寧に周知し、理解を求めていくことが必要なのかもしれない。
安倍さんは今後の改善策として、NHKと民放連が共同で被災地取材のマニュアルを作り、公開することなどを提案。「避難所を中継車などで占拠しないことはもちろん、窓口の担当者と協議し、場合によっては代表取材とすることも必要ではないか。高まる社会の批判に真摯(しんし)に取り組むことでしか信頼を取り戻すことはできない」と強調している。
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