EU離脱に警戒強める現地日本企業 投資戦略に変化も
英国の選択欧州連合(EU)離脱の是非を問う英国の国民投票を23日に控え、現地に拠点を置く日本企業が警戒を強めている。離脱が現実となれば、輸出関税などEUとの通商条件も将来的な見直しが避けられず、各社の欧州戦略の妨げとなる恐れがあるためだ。各社は英国内のメディアや政界にも働きかけ、英国民に冷静な判断を求めている。
英首相候補に直談判
「ビジネスの観点からいえば、当社は残留を支持する。EU離脱は不安定な状況を生み出す」
5月19日、東京国際フォーラムで開かれた富士通の技術イベントで、山本正已会長は来日していたオズボーン英財務相にこう訴えた。次期首相の最有力候補といわれるオズボーン氏は山本会長の言葉に強くうなずいた。
富士通は英国に拠点を置く日本企業で最大の約1万4千人の従業員を抱え、過去10年で30億ポンド(約4615億円)、1990年以降までさかのぼると半導体工場など40億ポンド(約6154億円)を投資している。
富士通は、英コンピューター最大手だった「ICL」が経営難となった90年、7億ポンドで同社を買収。欧州のITサービス拠点となる富士通サービス(FS)として再建し、現在はEU域内最大の事業拠点に育てた。
山本会長は英メディアに対し、「(英国がEUから離脱すれば)われわれは注意深く経過と結果を見極めて、さらなる投資をすべきかどうか判断する」と述べ、投資戦略の見直しを示唆した。
英国民に呼びかけ
日立製作所の中西宏明会長は、5月11日の英フィナンシャル・タイムズ、6月7日の英デーリー・ミラー紙に相次いで寄稿し、「対英投資や雇用拡大を再考せざるを得なくなる」と強い論調で残留に投票するよう英国民に求めた。
日立は英国で累計1千台超の鉄道車両を受注しており、事業規模は1兆円超になる。昨年9月にはニュートン・エイクリフに約126億円を投じ、鉄道車両の工場を建設した。
原発事業でも、2012年に英電力会社ホライズンを買収した。ホライズンは英国内の2カ所に4~6基の原発を建設する計画で1号機は20年前半に稼働する計画だ。事業規模は2兆~3兆円にも及ぶ。
英国がEUを離脱した場合、イタリアの工場で建造する鉄道車両の一部に関税が課される恐れがある。原発事業では、EUからの部材や人材の調達方針を見直す必要が出てくる。日立を牽引(けんいん)する鉄道・原発事業に影響が出れば、会社全体の業績を押し下げかねない。
コスト増の懸念強く
英国の年間自動車生産台数約160万台のうち、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダの3社で半数程度を占める。
英北部の港湾都市サンダーランドにある日産の工場は、15年に世界生産の約1割にあたる約47万5千台を生産した。うち、約8割は関税がかからないEU域内を中心とする輸出だ。
トヨタも英国に中型車の生産拠点を置き、年19万台の生産台数の約75%を輸出が占める。英南部ウィルシャー州に現地工場を置くホンダは昨年、英国で約11万9千台を生産し、5割以上が輸出だった。
英国がEUから離脱すればEU域内への輸出車に10%の関税がかかり、競争力がそがれる。日産のカルロス・ゴーン社長は2月、「(EU残留が)雇用、貿易やコストの観点からふさわしい」と離脱の動きを牽制(けんせい)した。トヨタ英国法人のトニー・ウォーカー副社長も「EU市場への自由なアクセスは事業に不可欠だ。離脱は製造コストの増加を招く」と懸念する。
日本貿易振興機構(ジェトロ)は「多くの日系企業が新たなコスト増を吸収できずに、他国への一部移転など戦略見直しを迫られかねない」と警鐘を鳴らす。
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