「シャープが大好き」鴻海会長ほめ殺し 独演会に水さす記者にブチ切れる場面も

 
シャープの高橋興三社長(右)、鴻海精密工業の戴正呉副総裁(左)と手を組む鴻海の郭台銘会長=4月2日、堺市

 経営再建中のシャープが台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業傘下に入る契約を締結した。2日、共同運営する堺市堺区の液晶工場で調印した後、シャープの高橋興三社長との共同記者会見に臨んだ鴻海の郭台銘会長は「買収ではなく投資」と強調するなど“融和”を演出した。

 1カ月余りの交渉で出資金の大幅減額や合意条項を鴻海に都合良く書き替えさせた豪腕の強面は封印。具体的な再建策を示すことなく「短期間で黒字化できる」と豪語した。2時間40分も続いた会見では結局、シャープ再建の行方がみえなかった。

 35分間の独演会

 英語名でテリー・ゴウと呼ばれる鴻海の郭会長が日本で記者会見を開いたのは2月5日以来となる。前回はシャープが鴻海との交渉に重心を置くと表明した翌日、郭会長が大阪市阿倍野区のシャープ本社を電撃訪問し高橋社長とロングラン交渉の後。「優先交渉の権利にサインした」と文書をかざし、その後にシャープが「優先交渉権を与えた事実はない」と否定する一幕があった。

 波乱の幕開けとなった交渉は、最初に提示していた支援案は出資額が4890億円から3888億円に減額されただけでなく、鴻海に都合の良い条件に変わっており、両トップの発言に注目が集まっていた。

 調印後、シャープの高橋社長が「互いの強みを生かして今後、戦略的提携を進めていく」と短くあいさつした後、満を持して郭会長が登場。「シャープペンシルから電卓、家電と繰り返して革新者であることを証明してきた。このDNAがあるからこそシャープが大好きだ」と持ち上げた。

 日本の老舗企業が台湾企業に買収されるイメージを変えようと「シャープは日本企業ではなくグローバル企業だ。鴻海も台湾企業ではなくグローバル企業。今回の案件はふたつのグローバル企業が相互に補完し成功を目指す。文化的な違いがあるからこそうまくこともある」と語った。

 さらに再建の手法については「詳細は語らない」と述べた上で「世界最高峰の技術開発をスピーディーにすることを支援する。シャープが今後の100年も革新者であり続けるためフルサポートを約束する」と訴えた。

 あいさつは予定を大きく超える35分の独演会になった。

 いら立つ場面も

 質疑応答で「シャープは本当に再建できるか」と質問されると、郭会長は「資産査定で強みと弱みを知った。弱みは限られた人数に開示するもので、ここでは強みの話をする」と前置きした上で「最近は日本市場で困難に直面しているが、テレビや空気清浄機、白物家電で業界をリードしてきたシャープの優れた商品は潜在力が大きい。(鴻海がコスト削減や大量生産でサポートし)どんどん購入してもらえば短期間で黒字化できる」と語った。

 「政府が消費税増税を先送りし、多くの人にシャープ製品を買ってもらえれば税収も上がる」と軽口を飛ばしていた上機嫌が一変した場面もあった。

 米国系通信社の記者が出資額を引き下げた理由と、さらに支払いを減らす可能性について質問したときのことだ。郭会長が「重要なのは価格より価値。両社が協力して競争力のあるビジネスにして将来の価値につなげたい」とまくし立てていた。

 すると、記者が「質問の意図と違う」とさえぎり、「出資額を再び減額する可能性があるかと聞いている」と改めて質問した。

 郭会長は「質問の意図が分らない」と語り、会見場に緊張感が漂った。すると空気を読んだのか一転して「契約書を交わしているので、支払いの減額はない」と発言。前列に陣取った鴻海スタッフ(?)を中心に拍手が巻き起こり、郭会長は自身のペースを取り戻した。

 意味深な発言

 意味深な発言が飛び出たのは、日本のアナリストが「(次世代ディスプレーと言われる)有機ELは鴻海も日本勢も遅れている。先行する韓国勢にどう追いつくのか」と質問したときだ。

 郭会長は「あえて会社名は挙げずに話す。報道で有機ELが出ているが、8割方は間違った情報が広まっていると思う」。

 米アップルがアイフォーンに有機EL搭載を検討していると報じられているとにおわせながらも、はたまた韓国勢が有機ELの生産拡大に動いていることかを明確にせずに謎かけをしたといえる。

 そのまま「有機ELの将来を考えると、私は(シャープの独自液晶の)IGZO(イグゾー)のほうが優れていると思っている。某会社のわなにはまらないようにお願いしたい。有機ELの開発は時間がかかり、ビジネスは手遅れではいけない」と述べ、2千億円の投資を盛り込んだ支援策に反して、液晶を重視する姿勢でけむに巻いた。

 従業員のリストラについては「鴻海では個人の業績をみて毎年、3~5%辞めてもらっている。日本では全員(の雇用を)維持できるようにしたい。適職でなかった人にももう一度チャンスを与え、残っていただきたい」と説明した。

 また、シャープ側の理由で出資が実現しなかった場合に、鴻海が液晶や有機ELなどのディスプレー事業を「公正な価格で購入できる」とした条項については「万が一のため」と述べ、「実行の確率では(99%のコンマの後に)9が並び続けるほどだ」と破談を否定した。

 記者会見で従業員のリストラや破談について言質を取られずに終え、不機嫌になったとはいえ、明言したのは出資額の減額がこれ以上はないというくらいだ。それにしても契約文書の条項を鴻海に有利に書き替えたいま、口約束に拘束力はないに等しい。

 シャープの再建がどうなるのか疑問が解消しないまま押し切られた記者会見だった。