「見え方」変えるリアルタイム中継技術 スポーツや公演を臨場感たっぷりに

 
古典の歌舞伎と最先端の初音ミクが合体する「超歌舞伎」

 遠隔地で開催されているスポーツイベントや舞台公演を、目の前で行われているように感じさせる中継技術。実現すれば、2020年の東京オリンピック/パラリンピックで、日本だけでなく世界中のどこからでも、競技の模様を臨場感たっぷりに観戦できる。NTTが研究・開発を進めているのが、そんなリアルタイム中継を可能にする技術だ。4月に行われる「ニコニコ超会議2016」というイベントでは、古典の歌舞伎と最先端の「初音ミク」を組みあわせた演目に使われて、今までにないステージが繰り広げられる。

 演壇に向かう講演者の映像が、ステージの後ろにあるスクリーンに映し出される。サウンドと共に映像が消え、ステージ上の演壇にスポットライトが当たって、そこに現れた講演者が話し始める。「お気づきだと思いますが、みなさまと違うところで、ひとりで話しております」。

 2016年2月に開催されたNTT R&Dフォーラム2016で、NTT代表取締役副社長 研究企画部門長の篠原弘道氏が行った講演の模様。言葉どおり、ステージ上に立っているように見えながら、篠原副社長はそこにはいない。地下1階にある講演会場から、カメラに向かってたったひとりで話している。

 それが、あたかもステージ上に立っているように見えるのは、NTTが研究・開発を進めている、イマーシブテレプレゼンス技術「Kirari!」が使われているからだ。

 2015年2月にNTT R&Dフォーラム2015でお披露目された「Kirari!」は、ステージ上に張られた目に見えにくいスクリーンに映像を投影し、立体感を持たせた音響を添えることで臨場感を生み出す技術。この時は、あらかじめ収録された卓球のゲーム映像を投影して、その場でプレーしているように感じさせた。今年のNTT R&Dフォーラム2016では、離れた場所で行われている講演をリアルタイムで中継した。

 デモンストレーションではほかに、離れた場所にある体育館で繰り広げられた空手の演武も、リアルタイムにステージ上に投影して、臨場感のあるスポーツ中継の実現性を示してみせた。講演や演武をカメラで撮った際に入る背景を消し、人物像だけを切り抜くようにして中継する技術も新たに開発。これによって事前の加工を必要としなくても、人物だけをリアルタイムで離れた場所に“伝送”できるようになった。

 この「Kirari!」を活用する場所として考えられているのが、2020年の東京オリンピック/パラリンピックをはじめとしたスポーツイベントだ。実際の競技会場から離れた場所に、そこで競技が行われているような観戦環境を作り出すことで、収容人数が限られ競技会場に入れない人や、海外も含めた遠隔地に暮らしている人にも、競技場にいるような臨場感のあるスポーツ観戦を楽しんでもらえる。

スポーツに限らずライブやコンサートの中継にも活躍しそう。デモでは実在する演奏者と映像の演奏者が、同じ場所にいるような雰囲気でクラシックを演奏して、リアルとバーチャルが混在するステージ作りが可能なことを示した。

 こうした実験の成果が、いよいよ一般の人の前でもお披露目される。動画配信サービスの「niconico」を運営するドワンゴが、4月29日と30日に千葉市美浜区の幕張メッセで開催するイベント「ニコニコ超会議2016」で実施する、「超歌舞伎」と題されたプログラムに、この「kirari!」が使わる。

 そこにはいない役者が演じたものが舞台上で行われているように見えたり、そこにはないものが現れたりするような演出が可能な「Kirari!」。この技術を使えば、大がかりな舞台装置を据えなくても、さまざまなシーンを舞台の上に作り出せる。舞台から離れた場所で演じている役者も、舞台上に登場させられる。現実と虚構とが入り交じった不思議なステージになりそうだ。

 演目は「今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)」で、歌舞伎の「義経千本桜」と、VOCALOIDソフト「初音ミク」を使って作られた人気楽曲「千本桜」を織り交ぜた、まったく新しい内容の舞台になるという。3月24日に開かれた「ニコニコ超会議2016」の概要発表会には、出演する歌舞伎役者の中村獅童さんが登壇して「最高の作品をお届けします」とアピールした。

誰も見たことがない舞台になりそうな「今昔饗宴千本桜」。ここでの成果が今後の演劇やライブ、スポーツといったものの鑑賞方法だけでなく、見え方そのものも大きく変えていきそうだ。