「報ステ」古舘キャスター、最後の出演で熱弁 「情熱持って番組作れば、多少は偏る」

 
テレビ朝日系報道番組「報道ステーション」でキャスターを務めた古舘伊知郎氏(右)ら(テレビ朝日提供)

 31日夜のテレビ朝日系「報道ステーション」に出演した古舘伊知郎キャスター。12年にわたり番組を続けられたことについて、視聴者に感謝の言葉を述べる一方、「情熱をもって番組を作れば、多少は番組は偏るんです!」と熱く語り掛かる場面もあった。番組の最後に古舘氏が述べた発言の全文は以下の通り。

 徹底的な罵倒、傷ついたことも

 「2004年の4月5日、この『報道ステーション』という番組が産声を上げました。それから12年の歳月があっという間に流れました。何とか、私の古巣、学舎(まなびや)であるテレビ朝日に貢献できれば、という思いも強くあって、この大任を引き受けさせていただきました」

 「おかげを持ちまして、風邪など一つひくことなく、無遅刻無欠勤で12年やらせていただくことができました。これもひとえに、テレビの前でごらんになっている皆さま方の支えあったればこそだな、と本当に痛感しております。ありがとうございました」

 「私は毎日毎日、この12年間、テレビ局に送られてくる皆さま方の感想、電話、メールなどをまとめたものを、ずっと読ませていただきました。お褒めの言葉に喜び、徹底的な罵倒に傷ついたこともありました。でも、全部ひっくるめて、ありがたいな、と今思っております」

 「というのも、ふと、あるとき気づくんですね。いろいろなことを言ってくるけれども、考えてみたら、私も『電波』という公器を使って、良かれとはいえ、いろいろなことをしゃべらせていただいている。絶対、どこかで誰かが傷ついているんですよね。それは、因果が巡って、自分もまた傷つけられて当然だと、だんだん素直に思えるようになりました。こういう風に言えるようになったのも、やはり皆さん方に育てていただいたんだな、と強く思います」

 現実は甘くなかった

 「そして、私がこんなに元気なのに、なんで辞めると決意したのかを簡単にお話しするとすれば、そもそも私が12年前、どんな報道番組をやりたかったか、ということにつながるんです。それは、言葉にすると簡単なんです。もっともっと普段着で、言葉遣いもネクタイなどせず、司法言葉じゃなくて普通の言葉で、ざっくばらんなニュース番組を作りたいと、真剣に思ってきたんです」

 「ところが、現実はそんなに甘くありません。例えばですね、『いわゆるこれが事実上の解散宣言とみられています』。『いわゆる』がつく。『事実上』をつけなくてはいけない。『みられている』と言わないといけない。これはどうしても必要なことなんです。テレビ局としても、誰かを傷つけちゃいけないということを含め、二重三重の言葉の損害保険をかけないといけないわけです」

 「そして、裁判でも『自白の任意性が焦点になっています』。『任意性』…。普段、そんな言葉は使わないですよね。本当にそういう風に語ったのか、あるいは強制されたのか、でいいわけです、本当は。例えばですね、今夜の夕食だというときに『きょうの夕食は、これは接待ですか、任意ですか』とは言わないわけです。でも、ガチッと固めてニュースはやらなくてはいけない」

 圧力はないが、空気は感じる

 「そういう中で、正直に申しますと、窮屈になってきました。もうちょっと、私は自分なりの言葉、しゃべりで、皆さんを楽しませたいというような、わがままな欲求が募ってまいりました。12年、苦労してやらせていただいたという自負もありましたので、テレビ朝日にお願いをして、『引かせてください』とお願いしました。これが真相であります」

 「ですから、巷の一部で、何らかの直接なプレッシャー、圧力がかかって私が辞めさせられるということは、一切ございません。そういう意味で、私のしゃべりや番組を支持してくださった方にとっては、私が急に辞めるのは裏切りにもつながります。本当にお許し下さい。申し訳ありません。私のわがままです」

 「ただ、この頃は報道番組で、昔よりも開けっぴろげにいろいろな発言ができなくなりつつあるような『空気』は私も感じています」

 「とっても良い言葉を聞きました。この番組のコメンテーターで、政治学者の中島(岳志)先生が、こういうことを教えてくれました。『空気を読むという特性が人間にはある。昔の偉い人もいっていた。読むから、一方向にどうしても空気は流れていってしまう。だからこそ、半面で、水をさすという言動や行為が必要だ』」

 「私はその通りだ、と感銘を受けました。つるんつるんの無難な言葉で固めた番組など、ちっとも面白くありません! 人間がやっているんです。人間は少なからず、偏っています。だから、情熱をもって番組を作れば、多少は番組は偏るんです! しかし、全体的に程良いバランスに仕上げ直せば、そこに腐心をしていけば、いいのではないかという信念を私はもっています」

 『報ステ魂』受け継いでほしい

 「そういう意味で、私は12年間やらせてもらった中で、私の中で育ててきた『報道ステーション魂』を、後任の方々にぜひ受け継いでいただいて、言うべきことは言う、多少厳しい発言でも言っておけば、間違っていれば謝る。その厳しい発言というのが、後年に、それがきっかけで議論になって、良い方向を向いたじゃないかという、そういう事柄もあるはずだと信じています」

 「考えてみれば、テレビの独り勝ちの時代がありました。その良き時代に乗って、綺羅星の如くあの久米宏さんが、素晴らしい『ニュースステーション』というニュースショーを、時流の“一番槍”を掲げて突っ走りました」

 「私はそのあとを受け継ぎました。テレビ地上波もだんだん厳しくなって参りました。競争相手も多くなりました。そういう中でも、“しんがり”をつとめさせていただいたかな。そういう、ささやかな自負を持っております」

 ニュースキャスターは孤独

 「さあ、この後は通信と放送の融合の“二人羽織”、どうなっていくのでしょうか。厳しい中で、富川悠太アナウンサーが4月11日から引き継ぎます。大変だと思います。しかし、彼には“乱世の雄”になっていただきたい。彼はこれまで12年、凄惨(せいさん)な殺人の現場に行き、オロオロしながらも冷静にリポートを入れてくれた。その足で今度は自然災害の現場にいき、住んでいる方に寄り添いながら、一生懸命やさしいリポートを入れてくれました」

 「私はこの12年で彼をすごいな、と思ったのが、1回たりとも、仕事上の愚痴をきいたことがありません。驚きます。酒を飲んでいてもです。そういう人です。精神年齢は私よりずっと高いと思っています。どうか皆さん、3カ月や半年あたりで、良いか悪いかで判断するのではなく、長い目で彼を中心とした新しい『報道ステーション』を見守っていただきたいと思います」

 「わがまま言って辞める私に強い力はないかもしれませんが、ぜひお願いをしたいと思います。そして、富川君とは仲が良いと思っているので、本当につらくなったら私に電話してきてください。相談に乗ります。ニュースキャスターというのは、本当に孤独ですからね」

 「私は今、こんな思いでいます。『人の情けにつかまりながら 折れた情けの枝で死ぬ』。『浪花節だよ人生は』の一節です。死んでまた再生します! みなさん、本当にありがとうございました!」

■報道スタンスに疑義 古舘氏らキャスター降板 「偏ってるんです、私」