九州新幹線長崎ルート “暫定”のリレー方式にフル規格待望論
九州新幹線長崎ルートは3月29日、当初の予定通り平成34年度にリレー方式で開業することで、ひとまず決着した。今回の合意は、スケジュールを優先した暫定案であり、その他の課題に目をつぶったといえる。沿線自治体から鹿児島ルートと同じ全線フル規格を求める声は強まり、与党内からも「改めて議論すべきだ」との声が公然と出始めた。(村上智博)
合意文書の調印には、与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームの九州新幹線検討委員会委員長の山本幸三衆院議員(福岡10区)、佐賀県の山口祥義(よしのり)知事、長崎県の中村法道知事、JR九州の青柳俊彦社長らが出席した。
国土交通省九州運輸局(福岡市博多区)の会議室で、報道陣をシャットアウトし、約20分の協議を済ませ、文書に署名した。
中村氏は記者団に、「道筋を示してもらった。34年度に向けて頑張ります」と安堵(あんど)の表情を見せた。
地元真っ二つ
長崎ルートは、在来線と新幹線という幅の違うレールをどちらも走れるフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)を用いて、平成34年度までに開業する計画だった。
ところが26年、試験走行中のFGTに重大な異常が見つかり、開発が暗礁に乗り上げた。
地元の意見は2つに分かれた。
長崎県は34年度という開業時期にこだわった。県内での工事が進み、発着点である長崎駅前の再開発事業もスケジュールに沿って進んでいるからだ。長崎県は、リレー方式でもよいから開業時期を厳守するよう求めた。国交省や与党でも同様の意見が出た。
だが、佐賀県はリレー方式に難色を示した。知事の山口氏は「平成34年にどうしてもとは申し上げないが、FGTは侃々諤々の議論を経た重い結論であることを認識すべきだ」とFGTにこだわった。
財政負担が大きいことが理由だ。リレー方式では、乗り継ぎ駅となる武雄温泉駅のホームの拡幅工事や新幹線車両の基地整備などで計70億円が追加で生じる。長崎ルートのような整備新幹線は、国と地元自治体が2対1で費用を負担する。
半面、博多から武雄温泉まで従来と同じ特急を使うことから、佐賀県にとって新幹線効果は、ほとんどない。メリットがないのに、負担だけが増えるというわけだ。
国交省は両県との妥協点を探った。
開業後に並行在来線として、佐賀、長崎両県がJR九州から購入する予定の肥前山口-諫早の線路などを無償とすることで、追加負担と相殺することにした。
さらに、肥前山口-諫早間でのJR九州による特急運行を、これまでの取り決めでは開業から20年間維持することになっていたが、23年間に延長した。
国は佐賀県の要望をほぼ受け入れた。
山口氏は記者団に「満額回答ではないが、県民に説明責任を果たすところまでクリアできた」と語った。
FGTは霧の中
今回の合意は、多くの問題を先送りした。
並行在来線の無償譲渡によるJR九州の収入減を、どうするかは今後の協議とした。
何より、開発のメドが立たないFGTの導入が不透明だ。文書は「(開業時の)平成34年度に先行車を導入する場合には活用する」との表現にとどめており、量産化の時期などは盛り込めなかった。
FGTの効果を疑問視する声は根強い。
博多-長崎間は現行1時間48分▽リレー方式1時間26分▽FGT1時間20分だ。リレー方式とほとんど差がない。JR西日本はFGTの山陽新幹線乗り入れに否定的だ。
一方、暫定開業に合わせて新たに投入する新幹線は、FGTの開発が進めば不要となりかねない。
地元、特に長崎県ではFGTを見限り、全線フル規格待望論が強まる。
長崎県議でつくる九州新幹線長崎ルート建設促進議員連盟の八江(やえ)利春会長は「長崎から函館に通じる新幹線を将来への財産として残すべきだ。費用の問題ではない。熊本や鹿児島に負けないよう長崎までフル規格でつなぐのが本筋だ」と語った。
こうした要望について与党検討委の山本氏は記者団に「いろんな議論があるので改めて議論すべきだ。地元の要請も見極めたい」とフル規格議論を排除しない考えを示した。
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