自動運転、社会への影響は…タクシー・バス雇用喪失も 経産省報告
経済産業省は29日の有識者会議で、人が運転しなくても目的地にたどり着ける完全自動運転技術が確立した際、社会や産業にどんな影響が出るかを報告した。移動が一層自由になることで交通の便が悪い過疎地の活性化につながるほか、ハンドルから手を離した“ドライバー”を取り込む新たなビジネスも活発になりそうだ。ただ、運転関係の職種は失業が問題になるなど課題も浮き彫りになった。
自動車の運転を全て車両システムが行い、ドライバーが一切関与しない状況を前提に検討した。2030年までに技術的に可能にすることを目指している。他の先端技術でも同様の想定を行い、政府の成長戦略などに反映させたい考えだ。
自動運転車を使えば、足腰が悪くなった高齢者や免許を持たない人でも自由に動き回れる。国内に700万人程度いるとされる「買い物弱者」の利便性が高まることで、過疎化が進む中山間地の住環境が向上し、地方の人口流出に歯止めがかかることが期待される。
移動中に車内で仕事をするなど働き方の幅が広がる上、映画を見たり食事をしたりすることもできるため、こうした移動時間を使うサービスが活発になる。ドローン(小型無人機)による宅配便の無人配送など、関連技術を生かした新たな事業も出てきそうだ。
一方、人・モノの運搬を自動運転が担えば運転関係の雇用が失われる。タクシー(約37万人)やバス(約7万人)に加え、工場で使うフォークリフトなどの機械運転(約80万人)も取って代わられる可能性がある。
自動車や関連部品産業でも自動運転技術に対応できない企業は淘汰(とうた)される。競争の激化により、国内総生産(GDP)比で10~20%相当の産業で労働者が転職を余儀なくされるなど影響が出るとの試算もある。
明治安田アセットマネジメントの久保井昌伸シニア・リサーチ・アナリストは「過疎地の高齢者には便利な技術だが、産業構造が大きく変化することで関連産業やこれから職業を選ぶ若者に不安が広がる。政府は15年後の雇用の姿がどうなるのか詳細な姿を示す必要がある」と指摘している。
■自動運転技術がもたらす光と影
≪産業≫
◆効果
「移動時間」を奪い合うビジネスの競争が促進。ドローンを活用した無人物流など新たなサービスも生まれる
◆問題点
企業間の優劣が明確化。ビジネスモデルの転換が遅れた事業者や、自動運転で不要になる部材メーカーなどは収益減
≪社会・雇用≫
◆効果
交通事故が減少、人手不足も改善。移動時間の有効活用で居住場所や働き方が自由になり、過疎地が活性化
◆問題点
タクシーやバスの運転手など運転関係の雇用が減少。企業の競争激化で転職を迫られる人が増加
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