鉄鋼各社、CO2排出削減を加速 分離・回収技術、業界挙げて推進

 
新日鉄住金室蘭製鉄所にあるCO2の分離・回収装置。新日鉄住金エンジニアリングが納めた=北海道室蘭市

 鉄鋼業界で、二酸化炭素(CO2)排出量削減などの環境対策が加速している。その主なターゲットとなっているのが、鉄を造る際に生じる排ガスからCO2を分離・回収する技術だ。鉄は石炭を蒸し焼きにしたコークスで鉄鉱石を還元し、酸素を取り除くことで造られるが、その際に膨大なエネルギーを必要とするため、業界のCO2排出量は多くならざるを得ない。排出量削減や排ガスの有効活用に向けた努力は以前から行われてきたが、ここにきて業界挙げての取り組みが実を結び始めている。

 化学吸収法を活用

 北海道室蘭市の新日鉄住金室蘭製鉄所に、他の製鉄所では見慣れない、2つの塔を備えたプラントがある。新日鉄住金エンジニアリングが納め、炭酸ガス大手のエア・ウォーター炭酸が2014年11月に稼働させたCO2の回収プラントだ。

 化学吸収法と呼ばれる手法を使い、高炉に熱風を吹き込む熱風炉の排ガスから1日120トンのCO2を回収している。2つの塔は、それぞれ吸収塔、再生塔と呼ばれている。アルカリ性の吸収液を冷却しながら排ガスに散布し、CO2を吸収するのが吸収塔で、吸収液を加熱してCO2だけを取り出すのが再生塔だ。回収したCO2は、炭酸飲料や溶接用の液化炭酸ガスなどにして出荷している。

 化学吸収法を用いた回収のアイデアは以前からあるが、実用には遠く、熱風炉ガスは活用されてこなかった。吸収液を加熱するのに膨大な熱エネルギーが必要で、コストが高くつきやすいためだ。

 そこで新日鉄住金エンジは新たな回収技術「ESCAP」を開発。吸収液を加熱する際の温度を、従来の120度程度から100度以下まで引き下げるのに成功した。これにより90%のCO2回収率を達成する一方、熱エネルギー量は4割、回収コストも2割程度減った。

 加熱温度が下がったことで、利用価値がないとして使われてこなかった廃熱や低温蒸気を活用しやすくなるうえ、設備も簡素化できるという。

 「原料ガスが常圧の場合は特に適している。火力発電所や化学プラントの排ガスも対象にできる」。新日鉄住金エンジの萩生大介製鉄プラント事業部商品技術室ガス精製・エネルギー技術グループマネジャーは、ESCAPの強みをそう説明する。

 ESCAPは、日本鉄鋼連盟や鉄鋼メーカーが新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として進めている国家プロジェクト「COURSE(コース)50」から生まれた。新日鉄住金と地球環境産業技術研究機構(RITE)が吸収液を開発、そこに新日鉄住金エンジが独自開発したプロセスを加えた。

 製鉄プロセス改良も

 鉄鋼製品の元となる粗鋼を1トン作ると、CO2が2トンも発生する。このため産業界が排出するCO2の45%を鉄鋼業が占めているほどだ。業界では排出削減のため、製鉄プロセスの改良を一体で推進。50年までに排出量を3割減らす目標を掲げる。

 コース50では、CO2を発生しない水素による鉄鉱石の還元法も開発中で、6月には新日鉄住金の君津製鉄所(千葉県君津市)に試験高炉が稼働するが、ここでも新日鉄住金エンジが施工を担っている。君津には同社が前に納めた回収装置があり、試験高炉と一体で技術の蓄積を図る考えだ。

 ESCAPは「技術的、コスト的には一定レベルに達している」(萩生マネジャー)というが、課題がないわけではない。例えばESCAPを普及させるには、回収したCO2を地下に貯留する技術を確立する必要がある。CO2の工業需要はそれほど多くないため、供給先を確保するのも簡単ではない。

 室蘭の場合、CO2を調達していた製油所が機能停止したため、製鉄所の排ガスに目を向けた事情もあった。そうした点を考慮すると、国内の候補は数カ所に限られてくる。

 その点、海外は製鉄所や火力発電所が多い。

 例えば油田に炭酸ガスを注入して原油を噴き出させ、回収率を高める技術がある。ESCAPを介して油田近くの製鉄所や火力発電所を結べば、CO2の有効活用につながる。

 鉄鋼生産量で世界の半分を占める一方、環境対策が遅れている中国あたりは有力候補となりそうだ。(井田通人)