ゲーム機だけのビジネスは限界 期待膨らむUSJの「マリオ」アトラクション
任天堂が、大阪市のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ)の運営会社、ユー・エス・ジェイと事業展開で2月に基本合意した。具体的な事業は未発表だが、USJで平成26年7月に開業した人気映画「ハリー・ポッター」エリアと同規模の400億円程度を投資するアトラクションが想定されている。任天堂の人気キャラクター「マリオ」が登場する予定で、ゲームの世界をリアルに体験できるかもしれないとファンの間では期待が高まっている。(牛島要平)
土管や神殿も?
「そこらじゅうに立っている土管に入れたり、空中に浮かぶ? ハテナボックスをたたくと、“こいーん”(とコインが出る)。これだけでもテンションが上がりませんか?」
昨年5月、あるゲームファンのこんな投稿が、ツイッターに掲載された。
任天堂が米国で映画のテーマパークを運営するユニバーサル・パークス&リゾーツとの提携を明らかにした直後で、人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」の世界を再現したテーマパークのアトラクションをイメージしたものだ。
アドベンチャーゲーム「ゼルダの伝説」の場面を思い描き、「時の神殿が建ってたりマスターソードが設置されたりしたら何としても(テーマパークに)行ってしまうな!」との投稿もみられ、ファンの期待の大きさをうかがわせた。
ユニバーサル・パークス&リゾーツとの提携について、任天堂の岩田聡社長(当時)が27年3月期決算の説明会で「任天堂ゲームのキャラクターや世界をもとに、ここでしか味わえない魅力的な体験を生みだしていく」と力を込めた。
具体的には、任天堂の人気キャラクターを使ったアトラクションを共同で開発し、パーク内に設置するとした。場所や時期、内容は発表されなかったが、当時はユニバーサルと資本関係のなかった大阪のUSJに新アトラクションが設置される可能性も報じられた。
「ハリポタ」並みに
そして今年2月には日本のファンの期待を膨らませる事実が明らかになった。
昨年7月に急逝した岩田氏の後を継いだ君島達己社長が27年4~12月期の決算会見で、ユニバーサル・パークス&リゾーツの親会社に昨年11月に買収されたユー・エス・ジェイとも同様の提携で合意したと発言したのだ。
新アトラクションの場所や内容の明言を避けたが、「ユー・エス・ジェイが展開する施設と理解してもらっていい」と言及した。
その君島社長は、かつての産経新聞のインタビューで「設置場所や内容について(テーマパーク側との協議は)着々と進んでいる」と説明。その上で「メリーゴーラウンドに任天堂のキャラクターをぽこっと乗せるくらいの規模ではない。大きなものになる」と明かした。
「大きなものとは?」と記者が質問すると、「どのぐらいの投資規模と考えますか」と銀行出身者らしい切り返し。まごついていると、こう教えてくれた。
「ハリー・ポッター(のエリア)は400億円ぐらいかかっている。同じ規模とは言わないが、かなりのものを考えている。そのぐらいでないと、お客さんに楽しんでもらえない」
実際、任天堂との提携で展開を進める新アトラクションをUSJの正面ゲート左側に整備する方針で、ツイッターでファンが描いたイメージはあながち「夢」ではなく、近い将来に実現しそうだ。
狙いはゲーム人口拡大
テーマパークに進出する任天堂の狙いは、豊富な人気キャラクターを活用してゲーム専用機やソフトの購入につなげることにある。
23年2月発売の携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」や24年12月発売の据え置き型ゲーム機「WiiU(ウィー・ユー)」の販売不振に苦しんだ任天堂は昨年春、新しい事業戦略を矢継ぎ早に公表していた。
テーマパークへの進出はその一つ。もう一つはスマートフォン向けゲームへの参入。いずれも、それまで「ゲーム専用機を離れた事業展開はない」としていた戦略を修正したと受け取られた。
ゲーム機とスマホ、テーマパークなどをつなぎ、修正後の戦略の中核になるのが3月からの新しい会員制サービス「マイニンテンドー」だ。会員がスマホ向けアプリで遊んだり、3DSやWiiUのソフトをダウンロード購入したりするとポイントがもらえ、オリジナルグッズや割引クーポンと交換できる仕組みだ。
将来は、任天堂のコンテンツを楽しめるテーマパークも、会員が何らかの特典を受け取れるように計画中という。君島社長は「マイニンテンドーで任天堂のキャラクターと接する人口が増え、ゲーム機やソフト購入の拡大につながる」と相乗効果に期待する。
娯楽の多様化でゲーム機だけのビジネスに限界がみえてきたのも事実。任天堂がテーマパークへの進出で「マリオ」などの有力コンテンツを生かしながら、業績回復のきっかけをつかめるかが注目されている。
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