「モンスターバイク」人気急上昇 超高額でも商談殺到 ホンダなど国内外で存在感
ずば抜けた走行性能を持つ「モンスターマシン」と呼ばれるバイクが人気を集めている。ホンダが昨年12月に納入を始めた排気量1000ccクラスの「RC213V-S」は、最高時速350キロで競う世界選手権レースの出場モデルを公道で走れるように改造。2190万円(日本)と価格も“怪物”級だが、500件以上の商談が殺到した。川崎重工業のサーキット仕様車「Ninja(ニンジャ) H2R」(1000cc)は量産車として世界最高速を標榜(ひょうぼう)する。日本メーカーはモンスターマシンで技術力をアピールし、欧米勢の牙城である大型バイク市場で存在感を高めることを狙う。
レース仕様を公道で
昨年12月21日、ホンダは英国にあるレース活動拠点で「RC213V-S」を初納入した。購入した英マンチェスター市在住のバイク販売店オーナー、ジョン・ブラウン氏は「ホンダのレース活動の歴史の一部が手に入るなんて、これ以上のチャンスはない。特別な日になった」と興奮した様子で語った。
「RC213V-S」は2013、14年の世界選手権レース「Moto(モト)GP」を連覇したモデルにライト類など公道走行に必要な装備を追加。ホンダはこれまでもレース参戦のために培った技術を市販車に生かしてきたが、「レース仕様車を公道で走行させる新たな試みだ」(広報部)。
価格はホンダのバイクとして最高を更新したが、億円単位のレース仕様車に比べれば「破格」。熊本製作所(熊本県大津町)の熟練作業員約25人による手づくりで、生産は1日約1台という希少品だ。
世界最高峰のレーサー気分が味わえるとあって、昨年7~12月末の期間の受注枠250台に対して2倍以上の商談が舞い込み日本でも約30件が成約した。
鈴木哲夫執行役員は「コレクションにしたいという要望や、早く乗りたいという意見など大きな反響があった」と話す。
川崎重工が14年7月から国内で納入を始めたH2Rは、エンジンシリンダーに空気を圧縮して送り加速力と燃費性能を高める機械式過給器「スーパーチャージャー」を搭載。300馬力以上の出力で、「大排気量のスポーツカー並みのパワーがある」(広報部)。
価格も530万円(税別)と高級車並みで、量産車ながら米国のレースで時速300キロ超えを記録している。併せて欧米限定で投入した公道仕様モデル「H2」は出力を200馬力に抑えたが、逆輸入する日本のファンが後を絶たないという。
その結果、15年モデルは世界で販売目標の2倍超を受注。昨年11月から国内受注を始めた16年モデルは、申し込みが殺到したため、予定より1カ月早く受け付けを締め切った。
川崎重工は「技術の閉塞(へいそく)感を打ち破るため、どこまで走行性能を高められるのか挑戦したかった」(同)。スーパーチャージャーを燃費性能の改善に生かす開発も進めているという。
ヤマハ発動機もモンスターマシンの先駆けとして1997年に「YZF-R1」(1000cc)を発表。最新の15年モデルは200馬力のパワーに加え、カウルにカーボン材を使い、燃料タンクは鉄の代わりにアルミ製として徹底的に軽量化を図った。
欧州を中心にサーキット走行を楽しむファンの要望は強く、15年3月の発売から初年度で年2800台程度の販売を計画する。日本では道路事情などから09年モデル以降の販売はないが、逆輸入車は少なくない。
操縦の楽しさ強調
日本メーカーのモンスターマシン投入が相次ぐのは、大型バイク市場で欧米勢に対抗するためだ。同市場は独BMWや伊ドゥカティ、米ハーレーダビッドソンなど欧米メーカーがブランド力でリードする。だが、日本勢はスポーツ性を重視したモンスターマシンを投入して「操縦の楽しさをアピールし、長距離のツーリングを楽しむモデルの多い欧米勢と差別化する」(業界関係者)。
日本勢が持ち前の技術力で“ぶっちぎり”の性能を示せるかどうか。モンスターマシンが大型バイク市場での巻き返しの契機になりそうだ。(会田聡)
関連記事