マツダ「RX-VISION」市販化へ熱い思い “魂動”生みの親「絶対に実現させる」

 
「RX-VISION」に込めた思いを語る、デザイナーの前田育男氏=東京ビッグサイト(撮影:大竹信生)

 10月29日に開幕した東京モーターショー2015で世界初公開された、マツダのロータリースポーツコンセプト「Mazda RX-VISION」。デザインチームを指揮する執行役員デザイン本部長の前田育男氏は、ブースを囲んだ大勢のファンの前で「このクルマのターゲットユーザーは私。夢で終わらせるつもりはない」などと市販化に向けて熱い思いを語った。(文・大竹信生)

 いまのマツダのラインアップに共通して導入しているデザインテーマ、「魂動(こどう)」を生み出したデザイナーの前田氏。もちろん「RX-VISION」も彼の作品だ。「私がいまのポジションに就いたのが2009年。単純にカッコいいクルマを作りたいとずっと思っていました。デザインチームのトップに立たないとすべてをディレクトすることはできないので、『チャンスが来たぞ』と思いましたね」と就任当時を振り返る。

 『魂動』というテーマを決めるのに1年

 前田氏が「魂動デザイン」で追及しているのが“クルマに命を与える”ことだ。

 「最初の1年はデザインをどういう方向に振ったらいいのか悩みました。『魂動』という名前も、決めるまでに1年かかりました。自分のこれまでのキャリアとやりたいことを2文字で表現することは、簡単にはできない。テーマワードを見つけ出すために何度も自問自答しました。『自分は何をやりたいんだろう』『マツダってどんな会社なんだろう』と考えて導き出した答えが、やはりクルマは友達や家族、恋人みたいな存在なんだと。だから、ただの冷たい鉄の箱ではなく、命あるものであってほしい。『これだな』と思いましたね」。

 いまでは「魂動デザイン」を取り入れた市販モデルは6車種まで拡大した。

 ただ、そろそろ次の手を打たなければいけない時期に差し掛かっていたという。「個人的にスポーツカーが大好きなので、そういうクルマを作りたいという夢をずっと持っていました。その夢のクルマが『RX-VISION』です」。

 ロータリーエンジンはマツダしか持っていない技術

 「RX-VISION」はマツダの次世代ロータリーエンジン「SKYACTIV-R」を搭載している。マツダは1967年に「コスモスポーツ」を通じて、世界で初めてロータリーエンジンの実用化に成功。その後は「RX-7」や「RX-8」にも搭載された。

 「ロータリーエンジンはマツダしか持っていない技術。我々があきらめてしまうと、世の中から消えてしまいます。課題はたくさんあるが、志の高いエンジニアが日々、懸命に改良を重ねて復活を望んでいます。これこそがマツダの挑戦の精神です」

 公開後から大きな話題となっているのが、圧倒的な存在感を放つ眩いデザインだ。「世界一きれいなFR(後輪駆動車)を作りたかった。ノーズが低くて長いですよね。タイヤよりボンネットが低いクルマは、ロータリーエンジンじゃないと作れません」

 「ボディ側面の反射もぜひ見ていただきたい。見た目はシンプルだけど、そこにエモーショナルな光を発する仕組みを入れました。シンプルな形で、日本の美意識を反映したかった。今の日本のクルマは、もうこれ以上足せないというほど、いろんなエレメントを重ねていきます。私は逆に、そういった要素を削り落として出てくる緊張感や色気を表現したかった。日本人女性の美しさをやわらかいフォルムに取り込んでいるのです」

 「フロントのデザインは、『RX-7』のオマージュを少し取り入れています。リアはマツダのロータリースポーツのヘリテージである4灯丸型のテールランプを採用しています。奥のほうを見ると、これは言っていいのかな…、トランスアクスルがあるんです。マシンらしさを出すために、ちゃんと見えるように作っています」

 ちょっとしたサービスもあった。「インテリアもかなり作り込んでいます。今回は開けない予定でしたが、ぜひ見ていただきたいのでお見せします」とドアを開けると、マツダ独特の「ソウルレッド」が映えるマシンは一斉にフラッシュに包まれた。

 前田氏は「RX-VISION」を作った意義についてこう話す。「マツダにはこのようなクルマが必要です。大人のクルマの文化を創って、カッコよく使ってもらえるものを提供するのが私たちの役割だと思っています」

 最後は「RX-VISION」の将来的な市販化を期待させる発言も飛び出した。「私がデザイナーになったのはスポーツカーが作りたいからです。このクルマのターゲットユーザーは私です。夢で終わらせるつもりで作っていません。絶対に実現させるという強い思いで作りました。あ、言っちゃった…」

 この発言に、同席した開発担当の藤原清志氏と販売・マーケティング担当の毛籠勝弘氏から「イエローカードだ」と“ツッコミ”が入ると、司会を務めた女性社員からは「レッドカードですね」のキビしい一言。苦笑する前田氏を前に、ブースを埋めたファンからは期待を込めた歓声と拍手が一気に沸き起こった。