【本の話をしよう】
『シェフを「つづける」ということ』という本を読んで、思うところが多々あった。
この本はレストランや生産者など「食」にまつわるライティングをしている井川直子が15人のシェフを取材したもの。しかも、10年以上前にイタリアで取材した日本人コック15人の現在を描くという、長期熟成型のノンフィクションだ。
そもそもは2002年の春、イタリアで料理修行する日本人たちを追いかけた取材が本書の始発点。1990年代後半から2000年代前半に海を越えた多くの若い料理人たち。就職に関しては超氷河期といわれ、バブルの残り香さえほとんどない閉塞していたあの当時に、彼らはイタリアを目指した。ちょうどサッカー選手の中田英寿がイタリアのリーグ、セリエAで華々しい活躍をしていた時代とも重なる。さまざまな分野でグローバル化が進み、近くなった海外へ、ある者は強い野心を抱いて、またある者はリュックひとつで身軽に飛び出したのだ。