彼女は、料理用の小さなバーナーをヒーター代わりにした殺風景なアパートで、シリアから逃げてきたときのことを話してくれた。
「ここにいては死んでしまう」。シリアを出る決心をしたのは、2年前の夏。親族の面倒を見る夫を残し、そばにあった洋服とあるだけのお金を持ち、小さな子供の手を引っ張って、国外へ出るバスが出ている停留所に向かった。妹とその子供たちも一緒だ。
何キロ走っただろうか、川に着いた。バス停は向こう岸にある。子供を背負って、時にはのど元まで水がくる川をずぶぬれになって渡る。へとへとになって、ようやくバス亭にたどり着き、すし詰めのバスに無理やり乗り込んだ。通常なら長くても数日の道のりを、20日間かけてヨルダンとの国境にたどり着いた。その間、食べ物も飲み物も、ほとんどなかった。
私は、ソファの代わりに立てかけられたマットレスに座って、ただ彼女の話を聞くことしかできなかった。