働き方

昔は究極の就職先だったのに…なぜ霞が関のキャリア官僚は「不人気職場」に変わったのか (1/3ページ)

 ■「優秀な学生が集まらない」霞が関官僚のほころび

 岸田文雄政権が総選挙を乗り切り、第2次岸田内閣が11月10日に発足したが、あらためて政権を支える霞が関官僚とのパワーバランスが問われている。

 安倍晋三政権から続く強権的な「官邸主導」の政治体制の下で、中央省庁の官僚の士気は著しく低下、若手官僚の退職者が続出する一方、総合職(キャリア官僚)志望者も激減し、たぐいまれな有能集団のほころびが顕著になった。自由闊達(かったつ)な議論が失われ「物言えば唇寒し」の中、コロナ禍での行政の不手際や法案をめぐる失態も目立っている。

 岸田政権は、「聞く力」を発揮して、「もう、やってらんない」とこぼす萎えた官僚群を奮い立たせ、「政」と「官」との関係を修復できなければ、足元から揺らぐことになりかねない。

 ■総務省職員の3割は「仕事に誇りもてず」

 菅義偉政権下で最も傷ついた中央省庁の筆頭が、菅首相のエンジンとなっていた総務省だったのは皮肉というしかない。

 菅首相の長男が勤務する放送事業会社「東北新社」に始まった「総務省接待事件」は、ナンバー2の総務審議官をはじめ前代未聞の大量処分に発展し、情報通信行政を担ってきた中核の幹部職員が軒並み霞が関を去るという異常事態に陥った。

 「接待事件」が行政に与えた影響を検証していた第三者委員会「情報通信行政検証委員会」(座長・吉野弦太弁護士)は、菅政権が退陣する直前の10月1日に最終報告書をまとめ、「公務のあるべき姿を見失っていた」と厳しく指弾し、国民の信頼を損なったことを強調、情報通信行政が負った傷の深さを浮き彫りにした。

 最終報告書は、総務省を揺るがした「接待事件」に一応の区切りをつけたが、実は、そっと添えられた資料の中に、総務省職員の「士気の低下」が歴然とわかる調査報告があった。

 検証委員会の求めで実施した情報通信行政に携わる職員向けの「組織風土や仕事の進め方に関するアンケート」(回答数:管理職から係員級まで280人)で、「総務省で働いていることに誇りを持っているか」との問いに、「そう思わない」4.6%、「あまりそう思わない」8.9%、「どちらとも言えない」16.8%と、約3割の職員が「仕事に誇りをもてない」と答えたのである。

 逆にいえば、「国家公務員の矜持をもって総務省再建に心を砕こうという職員は3人に2人しかいない」ということになる。「情報通信行政の再興」の担い手の意識としては、あまりに寂しい数字ではないだろうか。

 ■モチベーションの高い職員は半数にも満たず

 深刻なデータは続く。

 「現在、モチベーションが高く仕事ができている」と答えた職員は46%と、半数にも満たなかったのだ。

 さらに、「これまでのキャリアの中でモチベーションが下がる瞬間があったか」との問いには、87.1%が「ある」と答えた。

 その理由(複数回答)として、2人に1人が「残業が多い、忙しい、休みがない」51.6%、「上司、部下との人間関係に問題がある」48.0%、「職場で問題事案や理不尽なことがあった」46.3%と労務上の問題を挙げ、約2割が「職場で仕事ぶりや頑張りが評価されない」20.9%、「国民や行政の対象者等から評価されない」17.6%といったがんばり度が伝わらないむなしさや不満を訴えた。

 また、「省内に尊敬(信頼)できる上司や同僚がいる」と答えた人は8割にとどまり、「今の職場では、自由に意見を言うことができる」との問いにも、約3割が「イエス」とは言わなかった。

 ある程度の士気の低下は推察されていたが、アンケート結果を見た総務省関係者は「衝撃的な数字」と驚きを隠さない。「永田町と霞が関のパワーバラスが崩れて、官僚の裁量の余地がなくなり、面白いことを考える力が落ちてしまった」とため息をつく。

 最終報告書は、「一連の幹部職員の行動が、若手をはじめとする個々の職員の誇りを大きく傷つけ、仕事に対するモチベーションを低下させるとともに、幹部に対する信用を失墜させたはずである」と結んでいる。

 官僚の士気の低下は中央省庁全体に広がっているといわれるが、総務省では、前代未聞の「大事件」が拍車をかけたとみることができよう。

 官僚群が有能集団であるためには高い倫理観と知見が必須だが、もっと重視されなければならないのは公僕として国家・国民のために働こうという「意欲」なのだ。

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