ミラノの創作系男子たち

「合理」と「合理ではないもの」の間で ジュリアのアートに見えるもの~女子編 (2/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 建築家の父親のもとで育ったジュリアは高校を卒業した時点でパリに1年間滞在し、フランス語を勉強しながらこれから何を学んでいくかを探った。そこで日々心躍るパリ生活のなかで見つけたのが、近現代文学の面白さだった。そうしてローマの大学に進学した。

 フランスの作家であるマルセル・プルーストの作品を美学的観点から考察した内容を卒論に記した。卒業後、ローマの新聞社が発行するオンラインマガジンへの執筆に関わる。ちょうどインターネットの普及がはじまった1990年代後半のことだ。

 マガジンのテーマは食。そこは食品のオンライン販売をしていた。彼女の担当は食に触れた文学作品について記事を書くことだ。例えば、世界の文学作品が「朝食」や「誕生日の夕食」をどう表現しているかをコラムに仕立てる。なぜ人々の生活で朝食は比較的均一で昼食や夕食になるに従い多様化していくのか、という問いかけをする。

 ちょうど1989年からスタートしたスローフード運動が広がりをもちはじめた頃で、食とライフスタイルが注目され始めていた。彼女は仕事に夢中になった。

 3年ほど仕事をしているなかで、現在は大学の教員を務める将来の夫に出逢い、ミラノに引っ越す。そして娘と息子を産み育児に専念することになった。2人とも手が離れたところでジュリアは文章を書くのではなく、今度は前述したようなアート作品にとりかかったのだった。正確にいえば妊娠中から試作はしていたが、本格的にスタートしたのは育児に手がかからなくなって以降だ。

 生地に穴をあけたりする作業はその発端だ。だが、なぜ布をカットするのか?

 「プルーストの研究をしているとき、人は内にある表現したいことをすべて表現できるのではなく、いわば闇の一部を切り開くようにしか言葉を発していないと思ったの。だから、いつもそこにはギャップが存在するのね」

 

 ただ、ジュリアはそれを悲観的に捉えているのでない。ギャップの向こう側に広がる空間に魅力を感じているのだろう。

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