「事業承継」はなぜ社会課題なのか “変革”と“維持”の狭間で悩む経営者たち (3/3ページ)
例えば、株価の算定を行うために、自社が発行している株式を改めて確認したところ、「会社の創立時に名義を貸してもらっただけの株主が未だに株主名簿に記載されていることに気づく」というケースが多々あります。これは事業承継において非常に大きなリスクです。意図しないうちに経営権の分散が行われてしまっており、後継者へ自社株式を譲渡する際の足かせとなってしまうでしょう。
こういったリスクに事前に気付けるのも、事業承継計画表を作成するメリットと言えます。
そして、家族構成と合わせた株式の分配、相続を確認しておくことも重要になります。経営状況によって、相続で揉めることは少なくありません。老舗企業の場合、株式を分配していて、保有者が不在・認識をしていないケースも多く見られます。
そういった観点からも、いつ事業承継を行うかを決めるためにも準備をしておくことをお勧め致します。
事業承継が進まない企業に対する経済産業省の動き
経済産業省は2019年12月20日、後継者不在の中小企業に対して、第三者による事業承継を総合的に支援するための「第三者承継支援総合パッケージ」というものを策定しました。
「第三者による承継」とは、「親族間」「社内(従業員)」以外の事業承継を指します。
先に触れた「事業承継税制」などの支援策を講じる一方、後継者が未定の中小企業に対する対策が不十分だったということで、第三者承継を中心とした施策です。今後、年間6万社・10年間で60万社の第三者承継の実現を目指していくと発表しています。
実際に、企業をM&A(企業の合併・買収)形式で売却を促し、企業の統廃合を進めることで、経営者が高齢化している企業の雇用を維持していくことを目的とした打ち手です。また、地域に存在する「事業引継ぎ支援センター」の無料相談体制を抜本的に強化し、経営者が気軽に相談できる第三者承継の駆け込み寺を設置していく方針を掲げています。
この総合パッケージは、官民の支援機関が一体となり、サポートを行うことで第三者承継のルールの整備等を行い、「後継者不在の経営者がより相談しやすい環境」、「売却までの意思決定がしやすい環境」を作っていくための措置です。
政府はあの手この手、それでも…
いかがだったでしょうか。連載コラム「長寿企業大国ニッポンのいま」第1回として、社会課題としてあげられる事業承継の概要をまとめさせていただきました。これまで列挙した課題に基づき、経済産業省・中小企業庁から、様々な打ち手が出てくる一方で、実際には、国内企業の事業承継の進捗状況は芳しくありません。
経営者および後継者候補のみなさまは、是非ともご自身の年齢と会社の未来を見据えて、事業承継という課題に向き合っていただければと思います。
また、士業に関わる方が、経営者からの相談をもっとも受けやすいというデータも出ています。本コラムの読者で、士業に関わる方は、一度顧問先である企業の事業承継状況を伺ってみてはいかがでしょうか。
次回は、国の支援内容についてより詳しくご説明していきたいとしたいと思います。
*1 帝国データバンク、ビューロー・ヴァン・ダイク社のorbisの企業情報(2019年10月調査)
【長寿企業大国ニッポンのいま】は、「大廃業時代」の到来が危惧される日本において、中小企業がこれまで育ててきた事業や技術を次の世代にスムーズにつなぐための知識やノウハウを、事業承継士の葛谷篤志氏が解説する「事業承継」コラムです。アーカイブはこちら