連載コラム「長寿企業大国ニッポンのいま」第1回は、なぜ、「事業承継」が社会課題と言われるかについて、筆を進めていきたいと思います。
日本はもともと、長寿大国であると同時に、長寿企業大国でもあります。創業100年以上の企業数とその比率では、日本で3万3076社/世界の41.3%(*1)を占めるほどの割合であり、古くからの企業が残っている国です。みなさまがご存知の企業でも、意外に多くの企業が創業100年以上経過していたりします。
そんな中で、2010年代から、中小企業庁を中心として「事業承継」を早期に行うべきだという内容とともに、社会課題として挙げられてきました。また、近年では、「大廃業時代」というキーワードが、新聞のトップに上がるようになってきております。
そもそも「事業承継」とは
「事業承継」とはその名の通り、事業を引き継ぐことを言いますが、多くは会社の経営を引き継ぐことを指します。会社を引き継ぐ際に、株式・経営権など会社法として定められた経営を引き継ぐことと同時に、会社に所属する社員や取引先とのコミュニケーション、社員の教育などの人間関係を含めた引き継ぎも重要となります。
単純に「社長の交代」ということの中に、多くの要素があります。
事業承継という社会課題の影響
日本の人口分布同様、企業の代表、社長、事業のトップも高齢化が進み、企業の新陳代謝が悪くなってきています。さらに、時代はデジタルを中心とした時代に変化していく中で、高齢の経営者ではデジタルを活用したデジタライゼーション(デジタルを活用した効率化)に遅れを取り、日本のGDPと同じく、企業の生産性が上がらない、下がってしまうという課題が生まれてしまいます。
同時に、新型コロナウイルスの影響で、対面型、接触型で事業を行なっていた飲食店や士業などの業態では、デジタルを活用した業態変更、事業変革が必要になってきております。
経営者が高齢化していくことで起こる課題は、効率化が進まないというだけではなく、上記に記したように「廃業」する企業が増えていくことでもあります。
企業への貸付・融資を行なっていた地方を中心とした金融機関などが、貸付・融資のみでは事業が回らなくなってしまったり、株主による企業の成長への期待が下がったり、経済が回らなくなるリスクをはらんでいます。
場合によっては、経営者の高齢化に伴い、経営者の健康状態が不安定になり、会社自体の方向性に迷いが生まれ、社員が露頭に迷ってしまうケースも出てきます。
実際に、経済産業省・中小企業庁の試算によると、2025年までの見通しとして、現状のまま進むと10年間で累計約650万人の雇用と、約22兆円のGDPが失われます。
なぜ経営者が事業承継に取り組めないのか
経営者の高齢化が深刻化すれば経済が回らなくなるリスクさえあるにもかかわらず、なぜ事業承継が進まないのでしょうか。その理由は大きく3つあります。
ちょっと古いですが、2007年版中小企業白書によると、
- 後継者の収入が少ないことで、事業を引き継ぐための株式が購入できないこと
- 先代、立上げ経営者が代表者の個人保証にて会社を保有していること
- 事業用資産と自社株式の整合性がとれないこと
など、経済面の課題が多くあげられます。
しかし、近年では中小企業庁の事業承継税制などの改定や事業承継時の金融支援制度なども見直され、政府による経済面の支援が増えています。