今日から使えるロジカルシンキング

「新たな感染者数は50人です」 肝心な時にチラつく心理的な癖 (1/2ページ)

苅野進
苅野進

東京で新たに50人の新型コロナ感染者が確認されました。

 このニュースを耳にしてみなさんはどのような印象を受けるでしょうか? 2020年3月末には「すごい多さだ!」という反応でした。4月末だと「ついにここまで減ったか!」というものでした。私たちは、同じ「50人」という値に対して全く逆の反応をしてしまうのです。

 今回は、「限られた情報」を元に我々が下してしまいがちな「心理的な癖」を理解することで、論理的な判断を下すための一助にしていただきたいと思っています。

 「情報が限られている状態」とは

 冒頭の例のように、同じ数字でも全く違う印象を持つのは、直前に見たりして印象に残っている数字を基準にしてしまう癖があるからです。これを「アンカリング効果」といいます。

 前日の感染者が20人だったときの50人では「多い!」ですし、100人だったときの50人では「少ない!」という印象を受けるのです。みなさんがこの記事を読んでいるような冷静な状況では「そんなことだと思った」と軽くお考えになると思うでしょうが、この癖は「ここぞ」という場面で顔を覗かせるやっかいなものです。

 それは、「情報が限られている中で焦っている」ときです。「情報が限られている」というのは、「直前の情報しかない」だけでなく、「相場についての知識がない」ということも含まれます。つまり、「50人」という感染者数が、「そもそも医療崩壊を招くレベルなのか」「その後の感染爆発につながるレベルなのか」ということに関する知識です。これがないと、直前の人数との比較しかできず、「多い!」とか「少ない!」といった反応しかできなくなるのです。

 アンカリング効果はマーケティングの世界でも活用されてきました。顧客や交渉相手に「○○の癖が出るような状況に追い込んで、こちらに有利な判断をさせよう」といった具合です。

いまだけ! 通常価格から30%オフの9800円!

 「9800円」が相場として高いか安いかを知らない人に、「今だけ!」と焦らせることで、直前情報である「通常価格」だけを基準に判断させようとしているのです。

 アンカリング効果を狙ったマーケティングはほとんどの場合、意図的に「情報が限られている状態」に閉じ込めておこうという工夫がなされているものです。

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