ミラノの創作系男子たち

イタリア食材の伝道師 隔離生活でも「走り回る」 (2/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 エロスは幼少の頃から、泥で料理ごっこをするのが大好きだった。泥と草でつくった料理を並べる。特に彼の得意は練ることだ。そして11歳の時、叔父さんの経営するレストランで手伝い、「あの泥遊びと同じだ!」と気づいたのである。なんと幸運な人生だろう。こうして彼は料理で生きていこうと決意するのだ。

 20歳前後までにイタリアのいくつかのレストランで働いた後、彼はフランスに行こうと考える。1990年代の前半、フランスにはじまったヌーベルキュイジーヌの影響がイタリアにもあった。だが、まだイタリアのオリジナルといえるアイデアには乏しいと感じたのだ。

 「これはフランスで学ぶしかない」

 そして、フランス北西部にあるシャトーのミシュラン2つ星のレストランで「軍隊的修行」を受ける。上着にちょっとでもシミがついている、髭の剃り残しがある。すると「出直してこい!」と怒鳴られるのだ。こうした経験をイタリアではしたことがなかった。

 修行後、イタリアに戻る。ミラノで始めた店は開店直後から大評判になり、連日満席になる。1990年代後半、珍しい食材と工夫を凝らした盛り付けはミラノでは目をひいた。この店が2007年から1つ星をとってきたわけだ。

 コックコートの例にあるように、彼は何に対しても拘る。パーソナライズに並々ならぬ情熱を注ぐのである。厨房で使う包丁が専用に作られているのは言うまでもなく、自分の髭剃りの剃刀も特注品だ。ちゃんとブラシで泡立て、一枚刃でじっくりと剃っていく。それにペルージャの5世紀続く鍛治工房で作ってもらった剃刀を使うのである。

 こういう性格だから、隔離生活だからといって、じっとしていられないのだろう。

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