「じゃあ、相手の言うことをよく聞いて理解しなくちゃあね」とぼくが言うと、彼は「それよりももっと大事なのは、自分のクライアントが何を欲しているのかを知ることだけどね」と笑う。
往々にして、クライアントは「とれるものはすべてとりたい」というからだ。だから「交渉で何をとりたいか」の範囲をはっきりさせるために、クリエイティビティが必要だとファビオは語る。
彼のような「ブティック法律事務所」にとっては、オーダーメイドの質の高いサービスができるかどうかは生命線だ。
リーガルデザインという言葉がある。複雑な状況や法律の文章を一般の人にも分かりやすく説明する手法だ。インフォグラフィックスも使う。さらにリーガル・コ・デザインとのアプローチもあり、クライアントと一緒に解決策を作り、分かりやすいメッセージにのせる。
ファビオは、こうした領域に関心が高い。
昔は、クライアントがある特定の問題に困って法律事務所のドアを叩くことが普通だった。しかし今はそのようなパターンより、全方位の相談を頼まれることが多い。サイバー問題、プライバシー保護、労使問題など多面にわたる法的な関わりを、総合的に対応できるように頼まれる。
若手事業者のリーガルマインドが変わってきているのもある。殊に彼の事務所の場合、イノベーティブなビジネスを目指すスタートアップが顧客に多いので、新しい領域を切り開くに既存の規制との整合性をつけるための総合的サービスが要求される。
一方、ファビオ自身もイノベーションやスタートアップの世界に興味があり、自身が起業するか、弁護士として仕事をするか迷ったほどだ。自然とスタートアップの人たちとの付き合いが多く、彼らを手助けしているうちに弁護士としての位置をさだめた。