ミラノの創作系男子たち

リーガル分野の冒険家 交渉に「クリエイティビティは必要だ」 (1/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 ファビオ・アッツォーリーナは30代前半の弁護士である。ミラノの旧市街でも特に情緒あるゾーンにオフィスを構えている。

 理科系高校の生徒だった頃、将来は動物行動学を勉強したいと考えていた。生物の集団形成やその力学などに関心があった。そしてミラノのビコッカ大学に入学した。そこでは動物だけでなく人間の行動も視野に入れ、心理学を勉強しようと思い至る。

 だが、ある日、幼少の頃からの同級生の親友に「ちょっと商法の授業に出てみないか?」と誘われ出席し、自分の進むべきはこっちだと瞬間的に判断した。結果、法律を学ぶことに。人間の心理や行動が実際にビジネスの場面でどう作用するのか。そこに彼の好奇心が芽生えた。

 もちろん、この説明は自分の数々の選択を現時点から解釈した道のりだ。とはいうものの、「できる人」は比較的に若い年齢から自分の小さな経験をどう積み上げ、それらがどう統合されてきたのかを、結果論であったとしても説明できるものだ。

 今は仲間と設立した法律事務所で共同経営者をつとめながら、ロンドンのキングス・カレッジのマスターコースにも在籍している。オンラインとリアルのクラスがある。特に「交渉術」について学ぶことが多い。

 「イタリア人は交渉が得意なのに学ぶことあるの?」と、ぼくが尋ねると彼は次のように答える。

 「イタリア人の交渉は商売人的だ。今、ぼくが学んでいる交渉術とは違う。例えば、ここにケーキがあったとしよう。商売人の交渉とは、これを2人で半分ずつにするためのものだ。一方、ぼくたちの交渉が目指すのは、2人の当事者がそれぞれに何を利益とみるかを見極めることだ。つまりAはケーキの外側が欲しいと言い、Bはケーキの中心が欲しいと言う。そうなるのがベストだ」

 しかも、この交渉術は双方の弁護士が知っていた方がより効率がいい。なぜなら既に同じ土俵に立っているからだ。だから国外企業との交渉が多いファビオには役に立つ。

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