■オールドスクール、古典的だけど一周まわってカッコ良いヤツ
それにしても今回発表された「Z」で何よりうれしいのは、極めてオールドスクールなスタイルで企画されていることです。オールドスクール(old school)という英語は出身校という訳もありますが、古臭いとか時代遅れなというニュアンスから「古典的だけど一周まわってカッコ良いヤツ」とスラング的に使われているようです。
今回の「Z」は外観デザインこそレトロフューチャー、歴史的デザイン要素を取り込みながら全体としては未来志向の印象に仕上げられていますが、この電動化の時代にV6ガソリンエンジンオンリーの仕様になんとマニュアルトランスミッションも選べるのです。もちろん、ある程度既存のリソースを活かしながらゆえの選択肢かもしれませんが、軽量でコンパクトなボディにハイパワーな内燃機関の気持ち良さが格別なものであることは、この手のクルマに興味をもつ人であれば説明の必要もないものです。
これも、早くからリーフなど100%EVを製品化すなどで電動化に取り組んできた日産だからこそ許される希少なモデルリリースと言えるかもしれません。そしてスポーツカーの世界が、電子制御テンコ盛りのモンスター化する中で、その方向性は「GT-R」に任せて「Z」はシンプルな仕様で行くという判断もまた素敵なところです。
その結果、何よりうれしいのが米国での販売価格が40万ドル(邦貨換算約440万円)からと言われていますが、この種の高性能車としては極めてアフォーダブル(買いやすい)なことです。かつて「Z」は「プアマンズポルシェ」と揶揄された時代もありましたが、時代がバブル的な高級か否かのヒエラルキーから自由になる中、まさに時節を得た方向性ではないでしょうか。この冬と言われている日本仕様の発表が否応なく期待されるというものです。
ゴーン時代が過去のものとなり真価を問われる日産自動車。高度な工作機械の世界的な普及もありとあらゆる製品がコモディティ化しやすい時代は、逆に言えば「製品にどんな魂がこめられているか」の追求にこそ生き残る道があるに違いありません。
まして、技術面でも社会性の面でも自動車がEV化や自動化いわゆるCASEの大変革期、自動車というプロダクトの本質を追求する神学論争を避けられない時代でもあります。日産があえてのオールドスクールスタイルでリリースする「Z」に込める「魂」の真価に注目していきたいと思います。
【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら