■SNS時代のオリンピック
一方で、好事魔多し、それほどの美点満載のオリンピックもコロナ禍という特殊背景があるとは言え、現に今回多くの有形無形の事象が大炎上したこともまた事実です。すべてをコロナだからと総括してしまうことは簡単かもしれませんが、もう少し普遍的な時代背景としては、やはりネット、SNSがあることは間違いありません。情報の非対称性と言われる、良くも悪くも大手メディアだけに情報量と発信手段が独占されコントロールされていた時代と違い、誰もが発信し、拡散する時代は、そもそも情報に火がつきやすい環境ですし燃え広がり方の速度も尋常ではありません。
ましてそれが、オリンピックという最高レベルの情報価値、そして可燃性の高さを秘めるイベントであればこそ、そんな時代と反応したときのすさまじさをも我々はまさに目の当たりにしたのです。
かつては確かに「悪名もまた無名に勝る」という時代が間違いなくありました。ただ、今回炎上の当事者となった専門家やクリエイターの中には再起が危ぶまれるほどのダメージを受けた人も多く、前回の東京大会が表現者にとってハレの舞台、世に出るための一世一代の大チャンスというシンプルな認識だけで済んだ時代と様変わりしてしまいました。
それでも聖火は、冬季大会を合わせるとこれからも2年に一度灯され続けることでしょう。スポーツの醍醐味、アスリートの輝き、きらめき、華々しさ。同時に同じ熱量が業火と化し得る恐ろしさ。
少なくとも我々が、たった今歴史的な体験をしたことだけは間違いないように思うのでした。
【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら