このモデルにもし死角があるとすれば、その評価判定自体に疑問をもたれたり陳腐化する時に他ならないでしょうが「世界遺産」には今のところそんな気配はありません。しかしながら、権威があればあるほど世の中の厳しい検証にさらされることは世の常で、例えば、日本市場でいくつかのマーケティング活用成功事例を生んだモンドセレクションなども、一部メディアからは申請すれば結構な割合で受賞できるのではないかなどそのステータス性に疑問が投げかけられました。
確かに「世界遺産」も今や登録遺産1100を超え、それだけ世界が魅力的な自然と文化にあふれているとも言えますが、すべての新規登録案件が当初の誰もが納得する登録対象というわけにはいき難くなりつつあるようです。がゆえに、登録遺産自体の保全状況が大きく変わった場合の登録抹消や遺産数に上限の検討が行われるなど、権威性保全のための試行錯誤が常に行われている状況とのことです。
■良き志には力がともなう
とは言え、人類共有の文化財や自然資産が破壊されたり毀損されることから守ろうという「世界遺産」の趣旨を考えれば、やはりその”大義”はいかにも普遍的説得力のあるものです。
ブランディングや経営戦略の世界で、近年企業や組織を”PURPOSE(パーパス)”その存在意義や志までさかのぼって定義することの重要性が認識されていますが、まさに「良き志には力がともなう」ということかと思います。
まして「世界遺産」の場合、そこに登録されるためのガイドラインによって、実質的な保全効果も期待できるわけですから、一石二鳥以上の優れた取り組みに違いありません。
そう考えてみると、日本の観光地もかつて周辺が無秩序に開発されせっかくの景観が台無しだったり、商業主義が前面に出過ぎてお土産物のショッピングセンターのようになっていたりで、残念な状況少なからずであったように思いますが、近年、各地域の営々とした努力の賜物で、ずいぶんと整備された場所が増えたように思います。
日本第1号の「世界遺産」は1993年登録の「法隆寺地域の仏教建造物」と「姫路城」の2件ですが、まさに登録から保全までの活動そのものが、世界水準でのホスピタリティや保全対応への意識を啓蒙した部分があったのではないでしょうか。
またその点でも、第三者へのアピールより以前に、当事者やステークホルダー自身の自己啓蒙活動がとりわけ重要であるブランディング活動のケーススタディ的と言えるように思うのです。