外観デザインはメルセデス共通のアイデンティティを徹底
そんな室内空間、装備類の一世代以上飛び越えたかのような変化に比べると外観はむしろキープコンセプトで大人しく感じます。でも良く見るとAクラスからEクラスまで共通のデザイン文法が随所に反映され刷新されています。実はメルセデス各車種を通しての外観アイデンティティの統一化はここ10年ほどで着々と進められてきました。すでに現行Sクラスでさえ正直ぱっと見の印象だけでは、かなり自動車に詳しい人でさえなかなかCクラスやEクラスと見分けがつけられないのが実態です。ちなみに現行Sクラスはリアテールレンズの照明が3本線で、他クラスの2本線とわずかに区別されていましたが、今回の新型ではその区別もなくなったようです。
そうまさにブランディング的には、このメルセデス・ベンツが推進する統一アイデンティ戦略が、新型Sクラス登場でどういう領域まで到達するのだろうか、できるのだろうかという点が注目点なのです。
メルセデス・ベンツは今や年間250万台以上を製造販売する巨大ブランドであって、少数の高級車を限られた顧客にだけ売るかつてのアッパーセグメント専用ブランドではありません。1982年にメルセデス初めてのDセグメントとして190シリーズ(W201)が発売されたときはセンセーションを巻き起こしましたが、今やCセグメントのAクラスからラインナップするフルラインナップです。その今やまったく少ないとは言えない販売量を、歴史的な最高級車で培ってきた高いブランド力のパワーで牽引する、典型的なフラッグシップ戦略で推し進めてきたわけですが、素朴な疑問として「ブランドが陳腐化しないのか」とか、「最高を求めるトップセグメントのユーザーが満足するのか」という疑問が沸き上がります。
メルセデス・ベンツならではのフラッグシップ戦略
ちなみに、ライバルを見れば、BMW、アウディは主力の中小型車から徐々にセグメントを拡大し最上級セダンも手掛けるようになったメーカーです。一方でトヨタは上級ブランドとしてレクサスを別建てし、フォルクスワーゲングループはアウディ以外にも、ベントレー、ブガッティなど複数の最高級専用ブランドを買い取り使い分けこの市場を攻略しています。そういう意味では上位セグメントからボリュームゾーンに量的拡大を図るメーカーは多くないのです。
一時期500万台クラブという考え方が自動車業界では盛んに言われました。要は自グループで500万台以上製造販売するスケールがなければ、新時代の研究開発や部品調達に競争力を持ちえないという考え方でした。その後数々の模索がありましたが、日産・ルノー・三菱自動車グループのスケールメリットを目指した統合計画がとん挫し、メルセデス・ベンツを擁する独ダイムラー自体も米クライスラーとの経営統合に失敗するなど必ずしも成功事例ばかりではありません。一方で、独自路線を行く各社も生き残りに戦々恐々としている状況です。