例えば、今春夏シーズン販売されていた、「ドライEX」素材のポロシャツ。まず驚くのが素材の質感、発色です。品質面で世界のハイエンドには例えばフランスのエルメスやイタリアのロロピアーナなどがありますが、それら製品の高番手(繊維が細い)綿製品と見まがうようなツヤと手触り、深い発色なのです。パターン、カッティングも考え抜かれていてディテールまで追求したデザインとなっていることが分かります。着ると襟立ちもしっかりしていますし、ドライEX素材のまさに「着ればわかる」というサラッとした爽やかさに手放せなくなるというレベルの仕上がりです。そして何よりハイエンド製品と違う点は洗濯機でも洗えることと、もちろん値段。これで1990円はやはり顧客の期待をはるかに超えています。
他にも、50色の靴下。靴下の色に差し色を使えるようになればファッション上級者でしょうが、今までそれだけ凝った色味の靴下は腕を磨こうにも小物にもかかわらず結構なお値段で、お試しで履くハードルは結構高かった。これも一足290円ならばどんな色味でも心置きなく試せますし、50足セットでプレゼントなんて言うのも楽しいかもしれません。
つまり、ファーストリテイリングの「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というステートメントを、ユニクロは年々愚直に製品に表現しているのです。私もあるときにその品質の高さに気付き、宗旨替えし今では「常識」を変えられた一人です。
良きパートナーによる一貫したブランディング活動
それにしても柳井氏はすいぶん孤独だったはずです。一番認める部下玉塚氏でさえ自分のビジョンの全貌までは理解できない。私の身近な転職組や業界内の事情通を通しても、もどかしがる柳井氏の様子が伝わってきたものです。でもそんなとき何人かの柳井氏をして信頼を置くCD(クリエイティブ・ディレクター)が、彼の良きパートナーとなったことは有名です。かつてのジョン・ジェイ氏や、現在の佐藤可士和氏と、スティーブ・ジョブズを彷彿とさせるスタイルでのマンツーマンコミュニケーションを経てのブランディング活動は、柳井氏のビジョンを生活者に、社員に、ジャーナリストに、株主に伝えることに大いに役に立ったことは間違いがありません。
何より、現在のユニクロのブランドロゴデザインは圧倒的にシンプルにして新鮮です。まさに、従来のファッション業界の“○○ for men”とか“○○ pour homme”といった類の欧米社会上流階級のライフスタイルへの憧れを露わにした価値観からの決別をロゴで主張しています。海外でも“ユニクロ”というカタカナのフォントも活用し、白地に「金赤」という最も鮮烈なカラーリング。柳井氏の一見ケレン味、派手さはないけれど革命家的と言っていいほどの反骨心を感じる由縁です。
そんな、シンプルだけれども強いメッセージをお店、ショッパー、広告などあらゆるコンタクトポイントに一貫させる姿勢の徹底さもまた、ブランディング活動のお手本のようで、力強く生活者にブランド価値が浸透していく理由かと思われます。