事実と意見の区別について、ビジネスの現場では非常に神経質になる必要があります。
たとえば、
この企業の鑑定結果は10億円です。お得なので買収すべきです
という提案について考えてみましょう。ここで、
この企業の鑑定結果は10億円
が事実で、
お得なので買収すべきである
が意見だと考える方が多いのです。
買収すべきかどうかは誰が見ても判断が可能なものでないという考え方です。お得なので買収すべきである」が意見だということについては問題ありません。しかし、「この企業の鑑定結果は10億円」というのはどうでしょうか?
たしかに、「ある鑑定人が10億円という試算をした」というのは事実でしょう。しかし10億円という試算結果はあくまで「鑑定人の意見」なのです。ここで大事なのは、「鑑定結果が10億円」ということを、意見ではなく正しい事実として扱ってしまうことです。正しい事実だと考えてしまうと、検証しなければいけないという意識が抜けてしまいます。10億円という事実を元に判定した買収しようという検証があったとしたときに、10億円という鑑定自体は検証しないことになってしまいます。
これは、非常に危険であることはご理解いただけると思います。ビジネスの場では、自分に都合の良い情報を事実のように扱ってしまいがちです。上司や顧客を説得したいがために意見を事実のように宣言してしまうと、大きなトラブルにつながってしまいます。
根拠の薄い「共感」は説得力を失う
「意見」の取り扱いで注意したい点はもうひとつあります。意見を事実のように扱って説得してしまうのと同様に、「意見」への共感をひたすら目指すタイプのやりとりは、交渉の場でもよく行われるものです。
たとえば、
「これってお得じゃないですか?」
は意見です。「お得」とはなんなのか? たとえば「今かかっているコストより安くなる」ということなのか? 基準が明確になっていない限り、人によって判断が変わってくるものです。よく行われるのは、基準を明確にして事実を元に判断しようという姿勢を最初から取らずに、とにかく「お得である」という意見を相手にも同じように、そして事実を元にした根拠によらずに持たせようとする交渉です。