新型コロナウイルスの感染拡大に伴い緊急事態宣言が発令された。東京商工リサーチによると、負債額1000万円以上の飲食業の倒産は昨年、年間最多となる842件に上る。景気の先行き不安が一層強まる中、企業や個人事業者はこの「緊急事態」をどう乗り越えればよいのか。危機管理に詳しい日本大学危機管理部の福田充教授に聞いた。
タブーを恐れず受容リスクの議論を
――東京、埼玉、千葉、神奈川の4都県を対象とした今回の緊急事態宣言は、飲食店への営業時間の短縮要請が柱ですが、飲食店に限らず、多くの事業者がぎりぎりの経営を続けています。経済活動と感染対策のバランスを取らなければならず、難しいかじ取りを迫られた中での発令となりました。
福田教授:
飲食業は大手のチェーン店ではない限り、個人事業主の方が多いと思います。そうした小さな飲食店は資金繰りが悪化すると立ち行かなくなります。その支援を十分行わなければ、この1カ月間を乗り切るのは難しいでしょう。1カ月が経過した後もコロナの影響が続くことを考えれば、中長期的に支援策が必要です。一般企業も同様で、この緊急事態宣言が発令されているこの1カ月ではなく、その後も続くコロナとの戦いを見据えた対策を考えなければなりません。さまざまな経済活動をどう回していくのかと考えたとき、その方法は2つしかないと思っています。
1つ目は、経済政策とコロナ対策のバランスを取りつつ、うまくハンドリングしていくということです。コロナ禍の長期化、アフターコロナの社会に適応するため、テレワークやワークシェアリングを進めるとともに、社会全体の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」をさらに推進することが不可欠です。
ただ、これは非常にきれいごとで、テレワークやDXが通じる業種は限られます。現場を持っているエッセンシャルワーカー(生活必須職従事者)はもちろん、必ず人と向き合わなければいけない仕事も少なくありません。例えば医療現場もそうですし、介護や保育などもリモート化が難しい業種です。リモート化ができない事業者は、今まで通り、感染リスクと隣りあわせの現場でコロナと戦っていかなければなりません。そうした現場では、感染症対策を徹底しながら、戦術的な対応しないといけないのです。
2つ目は、新型コロナというものを、日本人として、日本社会として、どう受け入れていくのかということです。つまり「アクセプタブル・リスク(受容リスク)」とどう向き合っていくのか、ということです。季節性インフルエンザはすでにアクセプタブル・リスクとして、社会に受容されています。もちろん、そうなったのは医療の進化や医療体制の拡充があったからですが、コロナもいつか、その段階までもっていく必要があります。そうしないと、いつまでたっても、新型コロナウイルスだけは特別という状態が今後も数年は続いてしまうことになります。
自動車や原子力発電所のリスクと同様に、受容可能なリスクについて、しっかりと議論を重ね、合意形成をしていく時期が来ていると思います。経済はマインドです。いつまでも自粛ムードが続けば、マインドが冷え切ってしまい、実体経済は冷え込み、中長期的には投資や株式にも影響を与えます。その議論ができなければ、経済が根本的に死んでしまいます。経済が死んだら社会が死にます。
何としても経済を回していかなければなりません。コロナのリスクはどこまで受容できるのか。このタブーを恐れず、企業側が政治に働きかけて国民全体で議論をしていく必要があると思っています。