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ウイルスとは共存する相手 最善の備えが次の不適応にも 

 --とはいえウイルスは深刻な感染症を引き起こす。ウイルスと人間は共存できるということですか

 「ウイルスと人間の関係は、時間軸によって異なります。100年や1000年単位で見ると、ウイルスを取り込んで免疫を持った社会は強(きょう)靭(じん)になる。ヨーロッパ人は新大陸へやすやすと進出しましたが、アフリカでは現地の感染症に苦しめられてなかなか内陸部に入れなかった。免疫がなかったからです。現代の人類が地球上のさまざまな土地に行けるのは、すでに多様な感染症にかかって免疫を持っているからなのです」

 「もっと長い尺度、何千万年という単位でみると、ウイルスは進化の原動力にもなっています。哺乳動物の子宮内にある胎盤は、遠い祖先が感染したウイルスが残した遺伝子の働きでつくられたといわれます。胎盤はウイルスが人間などに感染するために持つ免疫抑制能力を受け継ぎ、胎児を異物として拒絶しようとする母体の働きから守っているといわれるのです」

 --卵生から胎生へという哺乳類の大進化に、ウイルスが関与したということですね。それは驚きです

 「ウイルスは宿主つまり感染する生物がないと生存できません。だから最終的には、宿主と安定した関係を築くことがウイルスにとっても有利なわけです。宿主が環境適応性を高めて生存率を高める方向に、ウイルスが働きかけている可能性もあります」

 「現生人類が持つ遺伝子には、遠い祖先が感染したウイルスに由来するものが多くあります。私たちが環境に適応して自然淘(とう)汰(た)を生き抜いてくるために、ウイルスが移した遺伝子も大きな役割を果たしたといえるでしょう」

 --今後、新型コロナウイルスとどうつきあっていけばいいのでしょうか

 「人と人の距離を取るなどの対策で可能な限り感染速度を遅くし、最終的に7割ぐらいが感染して免疫を持てば集団としての免疫がついたといえます。感染速度を遅くするのは医療システムを維持してワクチンや治療薬開発の時間を稼ぎ、より重要なのはウイルスを弱毒化させるためです。ウイルスの毒性は固有ではなく変化する。感染速度が遅くなればなるほど、感染者を短期間で死なせて自らも消滅する強毒ウイルスは生存が厳しくなるのです」

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