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年金給付水準 50%割れ現実味 厚労省試算 30年後に2割減

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年金給付水準 50%割れ現実味 厚労省試算 30年後に2割減

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厚労省幹部らが出席し開かれた社会保障審議会年金部会=2014年6月3日午後、東京都港区(共同)  厚生労働省は6月3日、公的年金の長期見通しを試算した財政検証結果を公表した。働く女性や高齢者が増え、経済が成長する標準的なケースで、現役世代の手取り収入に対する厚生年金の給付水準(所得代替率)は、現在の62.7%から2043年度に50.6%となり約2割目減りする。それ以降は固定され、04年に政府が公約した所得代替率50%は維持できる内容。一方で、低成長なら所得代替率は50%を割り込むことも明記、年金制度の安定には日本経済の成長が欠かせない実態が浮き彫りになった。

 名目成長率1.6%必要 

 厚労省は社会保障制度改革国民会議の報告書を踏まえ、通常の財政検証に加え(1)人口減少などに応じて給付を抑制する「マクロ経済スライド」を強化(2)保険料拠出(納付)期間延長(3)厚生年金の加入拡大-の3種類の制度改革を実施した場合の影響(オプション試算)も発表。いずれも給付水準が向上するとしており、厚労相の諮問機関である社会保障審議会年金部会で制度改正を視野に入れた議論を本格化させる。

 標準的なケースは名目成長率1.6%(実質0.4%)が前提。基礎年金部分はこの場合、43年度には現在から約3割目減りし、国民年金だけで老後を暮らす人にはさらに打撃が大きい。財政検証で厚労省は、8ケースの経済状況を仮定して試算。60年の合計特殊出生率が1.35など将来の人口推計が中位の場合、経済が成長する5ケースで代替率50%を維持できるとした一方、女性や高齢者の労働参加が進まず、低成長が続く3ケースでは50%を割り込むとした。最も悪い想定では、国民年金の積立金が枯渇し、代替率は35%程度にまで落ち込む。

 所得代替率は、平均的な賃金を得ている夫が40年間厚生年金に加入し、この間妻は専業主婦で過ごす世帯で計算。14年度の年金額は、月21万8000円で代替率は62.7%。標準的なケースでは、給付抑制が終了する43年度は月額24万4000円(現在価値に換算)で、代替率は50.6%となる。財政検証は5年に1度で、前回は標準的なケースに近い「基本ケース」で50.1%。今回は推計人口が好転したため、代替率がやや上向いた。

 ≪バブル崩壊前の成長前提「楽観的過ぎ」≫

 厚生労働省は今回の財政検証で、将来の年金額に大きく影響する経済の前提を8ケース想定した。結果からは、日本経済がバブル崩壊以前のような活力を取り戻せれば、政府が公約した給付水準を維持できるが、1990年代以降の停滞が続くようだと、大幅な目減りが避けられないことが浮き彫りとなった。

 経済前提では、技術進歩や業務改善の進み方などを示す「全要素生産性(TFP)」に着目したのが特徴。働く女性、高齢者が増えて成長力が高まり、TFPが高く推移する「経済再生ケース」で5種類、低成長が続く「参考ケース」で3種類について、それぞれ年金額を試算した。

 経済の再生を実現し、2024年度以降に名目成長率が年1.6%以上(実質年0.4%以上)となるケースA~Eでは、現役世代の手取り収入に対する厚生年金額の割合を示す所得代替率が政府公約の50%を超えた。前回09年の財政検証の「基本ケース」と近い前提のケースEでは50.6%。財政を均衡させるため、給付水準を徐々に引き下げる「マクロ経済スライド」は44年度までに終わる。

 一方、低成長で名目成長率が1.3%(実質0.1%)にとどまるケースFでは、給付と負担のバランスが取れるまで水準調整を続けると、代替率は50年度に45.7%まで落ち込む。さらに実質マイナス成長のケースG、ケースHでも40年度までに50%を下回り、その後さらに低下する。

 前回09年検証で、厚労省は経済前提を3パターン設け、その中間を「基本ケース」とした。だが、運用利回りなどに関し「設定が甘い」と批判が続出。今回は「長期の経済を正確に見通すのは不可能で、基本ケースを設けない」としている。経済前提の置き方は、厚労省の専門委員会が3月にまとめた。その中で一部の委員から、すべてのケースで実質的な利回り目標を、賃金上昇率を上回る1.7%と置くことに関し「高すぎる」との指摘が出た。ケースAについても「内閣府試算に基づく目標にすぎず、楽観的過ぎる」との声が上がった。(SANKEI EXPRESS

 ■財政検証と所得代替率 2004年の年金改革で将来の人口や雇用、経済見通しを踏まえ、おおむね100年間の公的年金財政や支給水準を少なくとも5年に1度検証することが義務付けられた。所得代替率はボーナスを含めた現役世代の平均手取り収入に比べ月にどれだけ年金を受け取れるかを表す数値。平均賃金で40年間厚生年金に加入した夫と、その間に専業主婦だった妻の世帯をモデルとし、夫婦合計での受給水準を示す。政府は年金改革の際に、将来にわたって代替率50%の維持を掲げ、与党は「百年安心」をうたった。財政検証で5年のうちに50%を下回るとの試算が出た場合、政府は負担と給付の在り方を見直すと法律に規定されている。

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