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【円游庵の「道具」たち】モダニズムが融合した木製漆器 丸若裕俊
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我戸幹男商店(がどみきおしょうてん)の漆器。天然木材の温かみと美しいフォルムから感じるモダニズムの融合が特徴だ(大山実撮影) 天然木材と正確なろくろ挽(び)きが可能にする、温かみを感じる“厚み”と気品高い“薄さ”の組み合わせ。市場に出回っている他の品々とは一線を画す木製漆器を制作するのが石川県山中地方に店を構える我戸幹男商店(がどみきおしょうてん)だ。
周辺は山間の自然に囲まれ、美しくも厳しい、まさに北陸の気候。そんなショールームに入るや否や、整然と並べられた美しくも洗練されたたたずまいの漆器に包まれ、思わず息をのむ。
我戸幹男商店の品の特徴は、天然木材の温かみと美しいフォルムから感じるモダニズムの融合にある。
「これらはどのように生まれるのだろうか?」。この種の感動に出合ってしまうと、自分ではどうしようもない、いつもの衝動が高まってくる。その時をまるで見透かされたように、「私たちの品々がどのように生まれるかというと…」と我戸幹男商店の方の声が聞こえ、私の品を見つめる目は声の聞こえる方に反転した。それまでせっかく忙しい合間をぬって説明してくださっている声を背にして、知らず知らず並べられた品々の魅力に心を奪われてしまっていたのだ。
お話によると、我戸幹男商店の務めというのは、漆器づくりに必要なそれぞれの技術力を持った山中地方の職人とのネットワークを深めること。
そしてもう一つは、新たな品を生み出すために必要なデザイナー、ディレクションを担う外部人材の見極めを行うということであった。
私は彼らのような立場の人々を数多くいろいろな産地で知っている。言葉に置き換えてしまえば単純明快にきこえるけれど、このポジションにいる人がいかに繊細に、人間の心を理解しているかどうかは、そのまま品に写し出されるのである。
そんなこれまでの経験からも、日々の彼らの絶え間ない努力と審美眼があって、はじめて我戸幹男商店の品々は生みだされていることは一目瞭然であった。
良い品が生まれるまでの道のりに必ず存在する“物語”を一通り堪能した後、ショールームに隣接する実際に品が作り出される現場に案内していただいた。
それぞれの工程は驚くべき程の高度な技術であるが、その一つ一つはシンプルであり、古くから延々と積み重ねられた伝統技術そのものであった。これは“名品”が生み出される産地で幾度となく経験した気付きである。
ショールームで見たモダンな気品をまとった品々は、実は積み重ねられた伝統技術の結集なのである。
確かに生活様式が変化した現代において、過去の遺物をそのまま押し付けられても窮屈なだけであり、人々は敬遠してしまう。だからといって見た目を現代の様式にそろえ、その製法や大切な素材感を代用で済ませてしまっては、日本のものづくりも何もあったものではない。
なぜその技術は生まれたのか? 先人たちは何を求め技術を磨いていったのだろうか? そんな問いを終わりなく突き詰める。そしてときには革新的な取り組みも行い、伝統的な技術や素材を幾重にも重ねることで使い手に提案された品にこそ、私たちは魅力を感じるのである。
短い滞在であったが、得られた知識その全てが、初めてこの品を手にしたときの自分の思いが間違っていなかったことを証明してくれるものであった。
今回のコラムを読んでいただいた方々にはぜひ実際に手にとって、できれば日々の生活の中で使用する機会を持っていただきたい。
そして、伝統という物が本来あるべき姿を堪能していただきたい。(企画プロデュース会社「丸若屋」 丸若裕俊/SANKEI EXPRESS (動画))
■我戸幹男商店(がどみきおしょうてん) 1908(明治41)年石川県山中温泉にて我戸木工所として創業。木地屋職人として木地師の理念を受け継ぎ、漆器の元となる木地の完成度にこだわった漆器を多く製作。近年では、デザイナーと精度の高いろくろ技法とのコラボレーションにて実用性と芸術性の高さを併せ持つ漆器を作りだしている。