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困難は自分を変えるチャンス サンドラ・ブロック 映画「ゼロ・グラビティ」

 生きる意味問いかけ

 取材場所に指定された部屋に入ると、映画のプロモーションで7年ぶりに来日した米オスカー女優、サンドラ・ブロック(49)がスマートフォンの画面を見ながら、大声で笑っていた。スピーカーからは幼い子供の楽しげな笑い声が漏れ聞こえる。養子に迎えた息子の声のようだ。テレビ電話に夢中だったサンドラは、米側のエージェントにうながされ、ようやくこちらに気づき、視線を向けた。「この子と遊ぶことは私の生きがいなのよ。本当にかわいいわ。ごめんなさいね。サンドラ・ブロックです」。開口一番、申し訳なさそうにあいさつすると、最高の笑顔で着席を勧めた。

 オスカーを手にしたサンドラが、休養を経て、最初の主演作に選んだのは、無重力の宇宙空間に放り出され、地球帰還を目指す宇宙飛行士たちの奮闘を描いたSF超大作「ゼロ・グラビティ」。3D技術を効果的に用いたビジュアル面が注目を集めがちな本作だが、来日会見でメキシコのアルフォンソ・キュアロン監督(52)が述べたとおり、本当に伝えたかったのは人間が生きる意味、生きがいとは何かといった哲学的な問いかけだ。作品はすでに世界で興行収入6億ドルを超える大ヒットを記録し、アカデミー賞の有力候補として日に日にその存在感を増している。

 最初は出演断った

 サンドラが演じたのは、ベテラン宇宙飛行士、マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)とともにスペースシャトルでミッションを展開する医療エンジニア、ライアン・ストーン博士だ。愛娘を失って以来、日々絶望感にさいなまれ、生きることに嫌気すら感じているストーン博士は、無が果てしなく続く宇宙空間に放り出されたことで、孤独感や喪失感を一層強めていく。しかし、地球への帰還という大目標に向けてもがくことは、「生きる」とは何かを考え直す契機ともなっていた。

 インタビューでは思いがけない言葉が返ってきた。「私は出演の打診を即座に断ったんです」。サンドラは唖然とする周囲を気にも留めず、こう説明を続けた。「そのとき私は仕事をしたくなかったの。無重力の中で活動する宇宙飛行士についても、映像化は技術的に不可能だと考えていたし。私はいまだにこの作品がどのように撮影されたのか分からないんですよ」。ストーン博士と同様、家庭の事情が仕事にも影を落とし、意欲をそいでしまっていたであろうことは、当時のサンドラをめぐる報道から容易に察しがついた。

 子育ての喜びを楽しむ

 そこから出演へと再び気持ちが傾くまでの経緯を限られた時間内に事細かに聞き出すことは難しかったが、サンドラが大切にしている子育ての心がけを聞いていると、その答えが次第に浮かんでくる。「私にとって子育ては喜ばしいことなの。だから、私は日々すくすくと育つ子供と一緒に子育ての喜びを楽しむことを大切にしています。それは優しさを持つこと、人への思いやり、しつけ、ルールを学ばせる過程。子供が学ぶ中で、自分自身で喜びを見つけるようにすることも大事だと思います」

 撮影に参加すること自体を、仕事の意欲を取り戻す「セラピー」と位置づけ、サンドラは自分なりに「喜び」を見つけようと試行錯誤した。愛娘を失った人物という設定を提案したのは、他ならぬサンドラだった。過去を抱えた人物を演じるのは、決していい気分ではなかったが、内面を描くことで物語に深みが出てくると考えた。

 「それにしても、俳優とは実に奇妙な職業だわ」。サンドラは本作を撮り終えてみて、つくづく感じたそうだ。気分が悪くなるような設定をあえて提案して撮影に臨むことが、自分自身へのセラピーになり、抱えていた葛藤さえも解決してしまうのだから。今では胸を張って言える。「困難は自分を変え、新しいことが学べるチャンスですよ」。12月13日、全国公開。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS

 ■Sandra Bullock 1964年7月26日、米バージニア州生まれ。母はドイツのオペラ歌手ヘルガ・ブロック。イースト・キャロライナ大学で演劇を学ぶ。94年「スピード」でブレイク。2009年「しあわせの隠れ場所」で米アカデミー賞主演女優賞に輝く。1995年「あなたが寝てる間に…」、2000年「デンジャラス・ビューティー」、06年「イルマーレ」、09年「あなたは私の婿になる」など。

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