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中国防空圏、ちぐはぐな対応露見 “真の狙い”見抜けなかった米国

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中国防空圏、ちぐはぐな対応露見 “真の狙い”見抜けなかった米国

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 【国際情勢分析】

 中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)を含む東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定したことへの米国の対応が怪しい。

 11月23日に中国が防空圏の設定を発表した後、米国は日本とともに中国を批判。(11月)25日(日本時間26日)には、中国側に事前通報しないまま米軍B52爆撃機を尖閣諸島上空に飛行させた。中国の防空圏設定に対する挑戦的な米側の行動に、日本は安堵(あんど)したに違いなかった。

 ところが、米政府は(11月)29日(日本時間30日)、米航空各社に対し、防空圏を米民間航空機が通過する際、飛行計画の事前提出など中国側の要求に従うよう促した。日本政府が、日本の航空各社に逆の要請をしていただけに、たちまち日米のちぐはぐな対応が露見したといえる。

 副大統領、撤回求めず

 12月5日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、12月4日のジョゼフ・バイデン米副大統領(71)の訪中に関する社説の中で、米国は中国に強い対応を取るべきだと訴える。

 WSJは「バイデン氏も、オバマ政権の他の閣僚も、米国は防衛義務を持つ日本の領土上空に中国が設置した防空識別圏を容認できないということを明言していない」と指摘する。

 その上で、むしろ米国の中国に対するシグナルは、日本との衝突の可能性を最小限にするようなやり方での防空圏設定を望んでいるというもので、こうした対応が「米国と日本の隙間を生じさせる危険性があり、それを中国が日米間の弱点だと解釈する可能性がある」と解説する。

 恐らく、中国は日米の“歩調の乱れ”をすでに察知しているだろう。中国の習近平国家主席(60)は、バイデン氏との会談で、防空圏の撤回を口にすることはなかった。もっとも、バイデン氏も防空圏設置を非難こそすれ、撤回は求めていないから言及するはずもない。

 12月6日付のWSJは、バイデン氏訪中に関する記事の中で、「米中が対立姿勢を弱める兆しがうかがえる。両国は、地域の安全を脅かしたり航空機の操縦士や乗客の生命を危険にさらしたりするような手段での対応はしないとの了解に向かっている」と報じている。

 はしご外される日本

 日本ははしごを外されつつあるようだ。これでは、中国に圧力はかからない。こうした米国のちぐはぐな動きを、12月5日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の論評は、「日本は中国の圧力を、危険で差し迫った挑戦とみているが、米国にとっては、やや遠く離れた懸念材料であり、地政学的なチェスボード上の1コマなのだ」と解説する。

 FTは、中国は自国の力量を過信するが海上自衛隊の能力には及ばないため、「簡単に尖閣諸島の支配を確立することはできない」と断言。

 また、支配したとしても尖閣諸島に戦略的価値はなく、逆に他のアジア地域の日本への信頼を高めることになりかねないと見通す。

 むしろ「可能性の高い結末」として、日米同盟の強化、または核兵器保有の可能性を含む日本の防衛力強化を挙げる。そして、「中国が絶えず警鐘を鳴らしてきた日本の軍国主義の復活は、実際はまだ先の話なのに、中国がその復活の条件を整えているのだ」として中国を戒める。

 「アジア回帰」示せず

 バイデン氏の今回の日中韓歴訪は、本来の目的とは異なる、中国の防空識別圏への対応が中心的なテーマになってしまったが、改めて米国外交の「アジア回帰」のあり方を問う好機となった。

 しかし、その結果は、歴訪前後の情勢にさほどの変化をもたらしていない。

 12月3日付の米紙インターナショナル・ニューヨーク・タイムズの分析記事は、オバマ政権高官の発言として、中国の真の狙いは「米国の存在を太平洋地域から追い出すこと」と記述する。

 中国の防空圏設定が狙う本当の目的は、尖閣諸島よりももっと大きなことだという認識が米国側にもっと強くあれば、バイデン氏の歴訪も違うものになっていたかもしれない。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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