SankeiBiz for mobile

台湾のバランス外交、中国防空圏で苦境

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの国際

台湾のバランス外交、中国防空圏で苦境

更新

 【国際情勢分析】

 台湾にとって安全保障上の関係が密接な米国と日本。一方で2008年の馬英九(ば・えいきゅう)政権発足以降、経済を軸に関係を改善してきた中国は貿易総額1位の相手。双方をにらみつつ外交・対中政策のバランスをとってきたが、次第に苦境に立たされつつある。11月には西アフリカ・ガンビア共和国からの断交通告に続き、中国が東シナ海上空で防空識別圏を設定したことで日中関係が一層緊張。尖閣諸島(沖縄県石垣市)に関して独自に領有権を主張してきた台湾だが、「日米、中国大陸双方ともに対立は回避する」(与党・中国国民党幹部)という馬政権は、野党などから対中姿勢で「弱腰」との批判を浴びつつも、慎重な姿勢を堅持している。

 迅速な対話呼びかけ

 12月1日に台北市内で開催された「カイロ宣言70周年」関連行事。馬英九総統(63)は挨拶(あいさつ)の中で中国の防空識別圏設定に触れ、関係各国・方面に対し「東シナ海の緊張情勢を高める行動をとらないよう」と語り、また中国と「迅速に対話を展開するよう」呼びかけた。馬総統が防空圏問題で直接立場を表明したのは初めてだった。

 しかし、中国が防空圏設定を公表した11月23日、総統府直轄の安全保障政策決定機関、国家安全会議は次のような4項目の声明を発表していた。

 (1)中国の防空圏設定は台湾の尖閣への領有権主張に影響せず、引き続き漁業者の権益を守る(2)争議棚上げなどを柱とする馬総統提唱の「東シナ海平和イニシアチブ」に従い、国際法の順守や対話の呼びかけで地域の緊張を抑制する(3)一部が台湾の防空圏とも重複するが軍は平和的かつ適切に処置し、自空域の安全を確保する(4)今後の情勢に強い関心で注視し、関係各国・方面と連携、対話を密にし地域の平和と安定を確保する-だ。

 馬総統は挨拶で中国から「事前に相談がなかった」と指摘しつつも、関係各国・方面が迅速に中国と対話し「東シナ海を平和と協力の海に戻すべきだ」などと語り、(11月)23日の声明の4項目を繰り返し強調した。

 「過剰配慮」に野党反発

 馬総統自ら台湾の姿勢を強調してみせた背景には、(11月)23日以降、「安全のため」として交通部(交通省に相当)が中国側の要求に従い、民間機に飛行計画の提出を指導するなど、対中慎重姿勢に野党などの強い反発が生じていたことがあげられる。

 対中関係では中台相互の市場開放を促進するサービス貿易協定の発効に関し、台湾では「弱小産業の切り捨て」とする野党の反発を浴び、立法院(国会)での承認が停滞している。

 また防空圏設定直後の(11月)26日には中国側の対台湾窓口機関、海峡両岸関係協会のトップ、陳徳銘(ちん・とくめい)会長(64)が4月の就任後初めて台湾入りし、中国の財界人らとともに12月3日までの日程で、台湾の財界人との交流や経済特別区の視察などが始まったため、野党に「過剰な対中配慮」を感じさせる状況がそろっていた。

 立法院では(11月)29日、野党の立法委員(国会議員)らが強硬な抗議を展開し、結局、与野党の協議で中国への「厳正な抗議」を当局に求め「飛行計画も提出すべきではない」とする共同声明をまとめた。

 対応に追われる当局

 行政院(内閣に相当)ではこれに呼応する形で(11月)29日中に中国に対し「厳正に立場を表明する」との声明を発表。防空圏設定は中台関係の「発展に寄与しない」と指摘しつつも民間機の飛行計画は、「安全を考慮し通報する」とした。

 また「地域の友好国と足並みを合わせるべき」とする議会の反発に対し、中国の防空圏に重複する台湾の防空圏での台湾空軍の活動が影響を受けないことを強調してみせた。

 この間、交通部が11月23日に複数の国籍不明機が台北飛行情報区に入っていたことや、過去に台湾の民間機が日本の自衛隊機のスクランブル(緊急発進)を受けた、などと明かして物議をかもしたが、緊急発進と電波通信妨害を混同するなど厳密ではなく、また中台の防空圏の重複区域の台湾空軍の訓練域が半減しているとの野党・民主進歩党などの批判に対し、国防部(国防省)では民進党政権時代の04年当時に線引きされた、と釈明するなど牽制(けんせい)を展開した。

 対中政策を担当する行政院大陸委員会も12月3日、行政院の声明直後に中国側に直接不満や懸念を伝えたことと同時に、この際、中国側から「台湾に向けた動きではない」との説明があったことを明らかにしている。(台北支局 吉村剛史(よしむら・たけし)/SANKEI EXPRESS

ランキング