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シャネル・ネクサス・ホールに響く真実の調べ 指揮者・大山平一郎氏と若手音楽家たちによる室内楽

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シャネル・ネクサス・ホールに響く真実の調べ 指揮者・大山平一郎氏と若手音楽家たちによる室内楽

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3夜連続公演の最後を飾ったドボルザークの弦楽六重奏曲。左から時計回りに千葉清加、長尾春花、金子鈴太郎、辻本玲、大山平一郎、中田美穂の各氏(小原泰広氏撮影、提供写真)  伝統とは終着点のない繰り返しの中から生み出された新たな真実の集積であり、過去から未来へと続く変わることのない営みの軌跡である。音楽は時間と空間の少なくとも4つの座標軸を持つ再現芸術で、生まれた瞬間に消え去りながら、彫刻のような立体感を伴って永遠の記憶を刻んでいく。

 東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで11月15~17日の3日間開催された「シャネル・ピグマリオン・デイズ スペシャルコンサートシリーズ」〈指揮者 大山平一郎氏と若手音楽家たちによる室内楽〉は今年で9回目を迎えた音楽祭。内に秘めた情熱を瞳の輝きに映し出す若い才能が集い、夜のとばりが降り、街路樹を彩る明かりが鮮やかさを加える頃に開演するステージでは、それぞれの胸にわき起こる感興を互いに響き合わせて、うねるような熱気が会場を包み込む。

 大河の流れを思わせる音楽史の中で一際の輝きを放つよりすぐりの名作と向き合い、偉大な芸術家の事績を丹念にたどりながら今この一瞬にしか生まれない調べを紡いで、五線譜の奥底にある真実が新たな光で照らし出されていく。

 「取り上げる作品は、すべて古典あるいは古典の基盤に立脚しています。音楽は偉大な先人たちの精神を受け継ぎ、時代の空気を織り込みながら新たな価値を加え、現在へと一続きにつながっています。楽譜に書き込まれているものは時代とともに複雑になっていますが、根底にあるものをきちんと見極め、意味を読み取って、今を生きる私たちの心を動かすものとしなければなりません」

 アーティスティックディレクターを務める世界的指揮者でビオラ奏者の大山平一郎氏は、このような思いを胸に才気にあふれる若い演奏家たちと音楽を奏でる。彼らは内外の名だたるコンクールで数多くの優勝、入賞歴を持ち、海外に拠点を置いて現代の名匠と共演を重ね、既に一流オーケストラの首席奏者を務めるなど、早くから注目を集めてきた精鋭だ。大山氏は、自ら考え、自らの言葉で説明し、自発的に意見を交わし合って音楽を作り上げようとする俊英たちの姿に、ほほえみのまなざしを送りながら、伝統に根ざした音楽の本質に肉薄する手を緩めない。重厚なプログラムを組み、濃密なリハーサルを共にして、舞台上の響きに昇華させていく。

 「音楽の本流とは受け継がれるべきもので、誰かが発明したり、占有するものではないことは明らかです。教えられ、経験してきたことを若い世代に伝えることは私の責務です」

 そう語る大山氏は、歴史的ビオラ奏者のプリムローズに学び、20世紀を代表する指揮者のジュリーニから格別の信頼を寄せられた。師の身辺にはハイフェッツやゼルキンをはじめ19世紀以前のヨーロッパの伝統を肌で知る偉大な演奏家が集い、楽譜の紙背に潜む音楽の真実を目の当たりにしている。

 プログラムにはベートーベン、シューマン、ブラームス、ドボルザーク、ドホナーニ、ポッパー、ブリッジと18世紀から20世紀にかけて活躍した作曲家が並ぶ。ドイツ、チェコ、ハンガリー、英国と出自もさまざまだが、どれも私淑、師弟、共演と精神的に固く結ばれながら大山さんの師へと伝承され、ネクサス・ホールに響いた音楽と一本の線でつながっている。

 先人が新しい才能を見いだし、手をさしのべ、新しい世界が生み出されていく。その営みは、若き日のピカソやストラビンスキー、コクトーを支援し、世に送り出したシャネルの創始者、ココ・シャネルの精神と響き合うかのようだ。

 ≪新しい力で新たな感動を≫

 「若い演奏家とともに考え、演奏して、音楽の本流を追い求めています。若い音楽家に何かを与えるのではなく、彼らが何を考え、何をなそうとしているかについて、いつも期待を膨らませています。彼らがどのような世界を目指しているかに触れることで、たくさんのことを教えられ、目を開かされます。新しい力を得ながら音楽の新たな感動を生み出したいと願っています」(谷口康雄/SANKEI EXPRESS

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