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習近平氏に五輪金賞授けたIOCの意図

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習近平氏に五輪金賞授けたIOCの意図

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中国・江蘇省南京市(省都)  【国際情勢分析】

 今年9月、国際オリンピック委員会(IOC)の第9代会長に就任したトーマス・バッハ氏(59)が11月19日、北京の人民大会堂で中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席(60)と会談し、習主席に五輪オーダー(功労賞)金賞を授与した。バッハ氏は会長就任後、初の外国訪問先に中国を選択。北京市が2022年冬季五輪招致に乗り出した中、中国を重視するIOCの“政治的意図”が気になるところだ。

 中国重視の姿勢

 中国国営新華社通信などによると、バッハ氏は、来年8月に第2回ユース五輪が開催される、江蘇省南京市の競技施設や準備状況などを視察した後、北京に入った。

 会談でバッハ氏は「中国は世界のスポーツ発展に対し、多大な貢献をしている。北京五輪は巨大な成功を収め、世界のために大切な財産を残した」と中国を持ち上げた。その上で、中国を最初の訪問地に選んだ理由を、「IOCが中国との協力強化を希望していることを示すためだ」と説明した。

 バッハ氏の“大盤振る舞い”は言葉だけではなかった。習氏に五輪オーダー、しかも金賞を授けたのだ。

 五輪オーダーは、スポーツや五輪運動の発展に貢献した人にIOCが授与するもので、金賞、銀賞、銅賞(1984年以降は授与中断)の3段階にランクが分けられている。

 日本オリンピック委員会(JOC)によると、日本人では過去、75年に東龍太郎(あずま・りょうたろう)JOC名誉会長(1893~1983年)が銀賞を贈られたのを最初に、53人(89年以降はJOCが推薦あるいは承認した受賞者)が受賞している。しかし、金賞を授かったのは、元JOC会長の堤義明氏(79)と、98年長野五輪組織委員会会長の斎藤英四郎氏(1911~2002年)のたった2人しかいない。

 北京五輪の「総責任者」

 2008年、国家副主席だった習氏は、北京五輪の「総責任者」として大会運営に関与した。ただ、北京五輪では、その年の3月に起きたチベット騒乱の鎮圧に絡み、世界各地で聖火リレーに対する抗議活動や妨害行動が相次いだ。中国国内では排外的な「愛国心」が盛り上がった。

 当時、開会式で問題になった少女の歌声の「口パク」を決めたのは、習氏とも報じられている。習氏は中国でのワールドカップ(W杯)開催を夢見る無類のサッカー好きとして知られているが、北京五輪後の中国での市民スポーツの普及状況などを見る限り、五輪ムーブメントに多大な貢献を果たしたとは言い難い。

 思えば、IOCは近年、スポーツの関わりが薄く、政治色の強い人物に五輪オーダー金賞を与えている。12年には国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長(69)に、13年には韓国の李明博(イ・ミョンバク)前大統領(71)に五輪オーダー金賞を授与している。

 潘氏は「ロンドン五輪で聖火リレーに参加し、開会式では五輪旗を掲げるなど、スポーツ分野で幅広い活動をした」、李氏は「韓国スポーツと五輪発展に対する寄与に加え、平昌(ピョンチャン)冬季五輪招致によりアジア全域での冬季スポーツの発展に貢献した」のだとか…。

 魅力的な経済大国の財力

 では一体、IOCは中国に何を期待しているのか-。

 NHKと日本民間放送連盟が共同で組織する放送機構ジャパンコンソーシアム(JC)が支払った10年バンクーバー冬季五輪と12年ロンドン夏季五輪の放送権料は計325億円。14年ソチ冬季五輪と16年リオデジャネイロ夏季五輪の放送権料は計360億円と値上がりしている。IOCにとっての“ドル箱”は、世界各国のメディアの悩みの種となっている。

 しかし、国営の中国中央テレビが五輪を放映する中国ならば、高騰する五輪放映権料にも腰を引くことはないだろう。今後、中国企業は重要な五輪スポンサーになるかもしれない。世界第2位の経済大国の財力は、確かに魅力的だ。

 五輪オーダー金賞を授与された習氏は「中国政府はこれまでと変わらず、五輪ムーブメントの発展を支持し、世界の五輪ムーブメントのために、更に大きな貢献をするよう努力していく」と約束した。スポーツの普及・発展に尽力している市井の多くの人々が、習氏の今回の受賞に納得するよう、“実際の行動”で示して欲しいものだ。(中国総局 川越一(かわごえ・はじめ)/SANKEI EXPRESS

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