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【勿忘草】「大人」と「正直」
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大阪市北区の新阪急ホテル。阪急阪神ホテルズは、ホテル事業の現場に精通した生え抜きの藤本和秀新社長のもとで信頼回復と再生に取り組むが、道は険しい=10月23日午後、大阪市北区(頼光和弘撮影) 「ホテルで食事」というと、バブル世代としてはクリスマスイブのカップルを思い出す。何カ月も前から予約が必要で、それだけ特別なことだった。
人気作家の東野圭吾さんもホテルには思い入れがあったようだ。ホテルを舞台にした小説「マスカレード・ホテル」を発表し、その刊行に寄せたエッセーで、ホテルとは「私にとって非常に大切な空間」と書いている。
阪急阪神ホテルズ(大阪)でメニュー表記と異なる食材を使っていたとして、社長が辞任する事態になった。
大阪勤務の経験がある同僚は「大阪の人にとって阪急ブランドは特別だから」と説明してくれた。恋人と2人で、就職祝いなどハレの日には家族で、食事をしに行く場所なのだという。結婚式を挙げた人もいる。そんな人たちが、楽しい思い出に泥を塗られた気分になったのだろう。
発覚後の会見で、社長が「偽装ではなく誤表示」と強弁したのが失敗だった。おそらく、社長は本当にそう認識していたのだろう。しかし、だからといってそのまましゃべっていいはずがない。少し考えれば分かることだ。案の定、わずか4日後に「偽装と受け取られても仕方ない」と言葉を変え、辞任を表明した。
同様のことを、次男の事件によって報道番組を降板したみのもんたさんの会見でも感じた。
「いろんな方に(次男は)別人格って言葉を言われたときに、素直にそう思いました」「みのもんたのせがれじゃなかったら…というのは正直な気持ちです」「正直に言いまして。どこかで思い上がって、どこかで突っ張っていた」
思ったことを「正直に」言ってしまうのは子供だけだ。いや、子供ですら考えてから口に出す。大人が「本当は」「正直に言うと」と前置きするのは、「本当のことを言うから許してね」という、相手への甘えに過ぎない。
東野さんは「大人が大人らしくいられる場所というのが、本当に少なくなったと感じています。そんな中でホテルは最後の砦なのです」とも記していた。ホテルは、ちょっと背伸びした大人の世界、あこがれの場所。ふさわしい大人の対応をしてほしかった。(小川記代子/SANKEI EXPRESS)