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万能インフルエンザワクチン 大和田潔

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの科学

万能インフルエンザワクチン 大和田潔

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 【青信号で今週も】

 私たちをウイルスや細菌から守ってくれる免疫システムには、「液性免疫」と「細胞性免疫」の2種類があります。液性免疫は、ガンマグロブリンという敵を見つけて張り付くタンパク質を使って相手をやっつけるシステムです。細胞性免疫は、免疫を担当する細胞が免疫システムを発動させたり、免疫細胞が敵を見つけて包み込んで食べてしまったりするものを指します。

 体をパトロールしている警察官は細胞性免疫で、彼らの保持する拳銃から発射される弾丸が液性免疫と例えることもできます。インフルエンザウイルスのかけらが含まれるインフルエンザワクチンを皮下に接種すると、その形を体が覚えます。するとウイルスに対応した「弾丸」、つまりガンマグロブリンを作りやすくなります。素早く対応する準備が済んでいれば、インフルエンザウイルスが鼻やのどの粘膜に付着しても水際で防いだり、侵入してきても軽症で済みます。インフルエンザワクチンは液性免疫を誘導する手段です。

 数年前、豚インフルエンザが大流行しました。その時に軽症だった人々を調査してみると、彼らは新型インフルエンザウイルスに対する細胞性免疫を獲得できた人々でした。液性免疫だけでなかったことが肝心です。ウイルスが厄介なのは、表面の形を次々に変えて、人間の免疫システムをすり抜けてしまう点です。表側の変装によって、警察官のパトロールをすり抜けてしまうと考えても良いでしょう。一方、新型インフルエンザに即座に対応できた人々は、変装に惑わされず中の犯人を見つける能力が高い、細胞性免疫を作ることができた人々でした。

 そこから、どのインフルエンザウイルスにも共通の内部構造に対応し、かつ、細胞性免疫を誘導できる万能ワクチンの制作が試みられるようになりました。日本の国立感染症研究所でもこの万能インフルエンザワクチンの制作が試みられており、実用段階に入りつつあります。この新型インフルエンザワクチンは、インフルエンザの種類を問わないため、強毒型鳥インフルエンザにも有効です。今年もインフルエンザワクチンのシーズンになりました。毎年接種しなくてはならないことが過去の話になるかもしれません。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS

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