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【世界自転車レース紀行】(9)イタリア 目指せ五大陸のチャンピオン 

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【世界自転車レース紀行】(9)イタリア 目指せ五大陸のチャンピオン 

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 年に1度開催される世界選手権。その名のとおり、ここでの勝者がその年の世界チャンピオンとなり、世界チャンピオンの証しとして、五大陸を表す虹があしらわれた特別なジャージが贈られる。

 自転車ロードレース競技では、ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどが非常に高いステータスをもち、そこでの勝利を夢見る選手も多いが、世界チャンピオンとして認められるのはこの世界選手権のみ。そして、ツール・ド・フランスなどグランツールと呼ばれるレースは3週間にわたり開催され、途中で厳しい山岳ステージが組み込まれるため、勝者は必ず山岳に強い選手となるが、それとは対照的に、世界選手権は毎年ワンデイレースとして開催され、開催国やコースは毎年変わるため、コースによってはスプリンターなど、様々な脚質の選手にも勝てるチャンスがある。

 今年の世界選手権の舞台となったのはイタリア・トスカーナ地方。古くから自転車競技が盛んで本場と言われる土地で、自転車競技が文化として根付いている。今もたくさんの自転車選手が住んでおり、オリーブ畑が広がる郊外の道では、休日になるとプロだけでなく多くの自転車愛好家とすれ違う。

 昨年から世界選手権の開催種目に取り入れられたチームタイムトライアルを皮切りに、個人タイムトライアルやロードレース、それぞれに男女、年齢カテゴリー別に8日間の日程で大会は開催された。大会のクライマックスであり、もっともファンが注目する23歳以上の男子ロードレースでは、ルッカをスタートし、フィレンツェ郊外の周回コースを10周回する272キロメートルのコースが設定された。

 世界選手権が始まった当初はトスカーナ地方は気持ちよく晴れ渡り真っ青な空に覆われていたが、しだいに天気は下り坂となり、最終日の男子ロードレースは、雷雨の中でスタートを迎えることとなった。

 ≪難コース攻略「夢が叶ったんだ!」≫

 ルッカからフィレンツェまでの約100キロメートルは2カ所の登坂区間があるものの基本的に平坦(へいたん)な道だ。しかし、フィレンツェの街を見下ろす街の北側に作られた周回コースは、登坂区間が4キロメートル続く「フィエーゾレ」と、最大勾配が16%という壁のような「サルヴィアーティ」。2カ所の厳しい登坂区間が組み込まれた難コースだった。雨による落車や低体温症なども相次ぎ、男子エリートのレースはたちまちサバイバルレースの様相を呈した。

 序盤からレースをリードしたのは、自国開催となったイタリア勢。しかし、終盤にかけて、エースのヴィンチェンツォ・ニーバリが落車し、歯車がかみ合わなくなってしまう。最終周回では次々にアタックがかかり、最後の登坂区間を終えると、ニーバリ、ルイ・コスタ(ポルトガル)、アレハンドロ・バルベルデとホアキン・ロドリゲス(スペイン)の4名の有力選手が先頭に残った。

 2選手を先頭に送り込んだスペインが有利な展開だったが、最終的にゴールラインを真っ先に越えたのは、ポルトガルのルイ・コスタ。イタリアとスペイン、2つの強豪国が互いに意識しあうなかで、絶妙なタイミングを見極めて、ポルトガル人で初めてとなる世界チャンピオンに輝いた。

 「今日は夢が叶ったんだ! まだ何が起こったか信じられないよ」と涙を見せながらアルカンシェルジャージに袖を通したコスタ。激しく降り続いていた雨も、7時間を超えるレースが終わる頃にはやみ、ゴールラインには薄陽が差し込んで、新しいチャンピオンの誕生を祝福した。

 世界選手権が終わると、自転車ロードレースのシーズンは終わりを告げる。どのスポーツよりも長いと言われるシーズンが、ようやく終わるのだ。欧州の景気の停滞を受けて、いくつかのチームが解散に追い込まれ、たくさんの選手がいまだに来季の契約を獲得できていないという現実があるが、2014シーズンは1月下旬にオーストラリアで開幕する。(写真・文:フリーランスカメラマン 田中苑子/SANKEI EXPRESS

 ■たなか・そのこ 1981年、千葉生まれ。2005年に看護師から自転車専門誌の編集部に転職。08年よりフリーランスカメラマンに転向し、現在はアジアの草レースからツール・ド・フランスまで、世界各国の色鮮やかな自転車レースを追っかけ中。

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