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「静の演技」勉強させてもらいました 映画「蠢動 しゅんどう」 若林豪さんインタビュー
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時代劇の自主映画を手がけてきた三上康雄監督(55)が、1982年の代表作をセルフリメーク。若林豪(74)、目黒祐樹(66)、平岳大(39)ら名だたる実力派俳優陣のほか、「たそがれ清兵衛」「蝉しぐれ」「最後の忠臣蔵」といった時代劇の名作で殺陣、照明、音響効果を担当した最高のスタッフが一堂に会して、群像劇「蠢動 しゅんどう」は完成した。「人はそれぞれの立場で正義を主張し闘うものだ」と捉える三上監督の人間観が登場人物たちに息づいている。
享保20年、山陰の因幡藩。大飢饉から3年がたち、世の中は落ち着きを取り戻したかのようにみえたが、城代家老の荒木源義(若林)は、幕府から遣わされた剣術指南役の松宮十三(目黒)に不審な動きがあるとの報告を受ける。側近の舟瀬太悟(中原丈雄)に松宮の動向を探るように命じると-。
若林の役どころは、取り潰しの危機に直面した因幡藩を守ることを優先するあまり、非情な決断をせざるを得ない立場に追い込まれる孤独な組織のトップだ。「作品が描いた世界は現代のサラリーマン社会と似ているでしょう。組織を守るために、理不尽なことが行われ、死ななくてもいい人が死んだりする。作品は時代劇の形をとっていますが、今の若者たちがみても、興味深い題材だと思いますよ」
スタントも早回しもない大殺陣も本作の見どころの一つだが、監督が若林に求めたのは「静の演技」であり、その要求に応えることはベテラン俳優といえども至難の業だった。「僕は『動』の芝居をする役者だった。刑事物でも事件現場へ急行したり、犯人を追いかけたり、よく動いていたでしょう。極端に言えば動かないと何もできない役者なんですよ。それが『話さなければ、話さないだけいい』というわけで…。では、眉一つ動かさないで、脚本に書かれた情景を出せるか、その難しさを味わってみようと思い直しました」
取材当日、若林は完成した作品を初めて鑑賞したが、自己評価は厳しい。「できてないんだなあ。三船敏郎さんの『上意討ち 拝領妻始末』(1967年)と比べると、僕とはスケールが違うんだよな」とポツリ。
場面の中で、何もせず、ただそこに在るだけでメッセージを伝えること、演技の裏にあるものを確かに届けることの難しさ。「しっかりと勉強させてもらいましたよ」と充実した表情で語る円熟の名優は、いまだ演技への飽くなき挑戦者でもあることをうかがわせた。公開中。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:瀧誠四郎/SANKEI EXPRESS)
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