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詐欺師と人間としての主人公 乖離させた 映画「人類資金」 佐藤浩市さんインタビュー

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詐欺師と人間としての主人公 乖離させた 映画「人類資金」 佐藤浩市さんインタビュー

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 言わずと知れた、日本を代表する実力派俳優だ。映画、ドラマでの活躍はもちろん、大企業のイメージキャラクターとしてもゆるぎない人気を誇る佐藤浩市(52)の顔を見かけない日はないといってもいいだろう。しかし、その対価として得られるお金には、あまり執着がないというのが正直なところらしい。「結局、芸事をやっている人間は、お金に対してはどこか『俺は金銭がほしいから仕事をやっているわけじゃないよ』というのがある。そういう気持ちでいたいわけじゃないですか。現実的には僕にも生活があるわけだけれども、経済観念については役者ではない仕事をされている方より欠落しているかもしれませんね」

 そんな佐藤が、新作サスペンス「人類資金」(阪本順治監督)で世界を股にかけて暗躍する希代の詐欺師にふんし、生き馬の目を抜くようなマネー戦争の中に飛び込んだ。本作は、2005年「亡国のイージス」でも阪本監督とコンビを組んだ作家の福井晴敏(44)の小説をベースに、2人が共同で脚本も執筆した。

 もっと愛嬌のある人物に

 真舟雄一(佐藤)は、相棒のヤクザ(寺島進)と組んでM資金詐欺を繰り返してきた。そんな真舟の前にある日「石優樹」(森山未來)と名乗る男が現れ、自分たちが詐欺を持ちかける際に使っているのと同じ名の財団への同行を求めた。後日、石と財団を訪ねた真舟は、謎の男M(香取慎吾)から「10兆円のM資金を盗み出してほしい。報酬は50億円」と依頼される。Mは「日本復興に使われてきたM資金が、今やカネでカネを買う投資ファンドになりさがっている」と説明した。多額の報酬と、成功した暁にはM資金の秘密を教えるとの話に興味を持った真舟はその依頼を引き受けることに-。

 次第にマネーゲームに嫌気が差してきた真舟が、悪人に徹しきれなくなり、正義感にも似た感情を芽生えさせていくのが面白い。佐藤は、撮影に臨んでからもそんな真舟の人間像を捉えきれず、苦しんだそうだ。「弱者からはお金を取らないとはいっても、犯罪者は犯罪者。世の中に対してはかなり斜に構えた人間ではないかと考えていました。うまく整合性がとれずにいたんですよ」

 何度もコンビを組んだことがある阪本監督とは、佐藤はあうんの呼吸で仕事をこなしてきた。本作でも、事前に打ち合わせはしたが、真舟をどんな人物に消化すべきかについて、阪本監督は「完全に僕に任せてくれましたね」。今回この難解な人物を演じるにあたり、佐藤は、監督に確認する意味も込め、意を決して提案してみた。「生業でやっている詐欺行為に励む真舟と、あるべき人間としての真舟とを乖離(かいり)させてもいいか-とね。極貧の中で暮らしていても明るい人はいるわけで、真舟という人間を2つに乖離させ、もっと愛嬌のある人間にしてみようかなと考えました」

 どんな役でも難なく演じてしまうオールマイティーな役者という印象があるが、佐藤に言わせればそれは“幻想”だという。「『今度はどういう役を僕に求めてくるのかな』と、そちらの方が今の自分にとっては重要なんです」。

 だから出演の打診で、「実はこんな役なんですけど、やってみますか」と恐る恐る言われることが無上の喜びだという。「要は打診する側が『佐藤らしくない』と勝手に決めて、その上でもってきてくれる役ほど楽しい役はないんです。まだまだ俺も期待されているのかなとも思えるんで。どんな作品でも見たことがない佐藤であればうれしいな」。10月19日から全国公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:蔵賢斗/SANKEI EXPRESS

 ■さとう・こういち 1960年12月10日、東京都生まれ。主な映画出演作は、2008年「ザ・マジックアワー」、09年「誰も守ってくれない」、10年「最後の忠臣蔵」、11年「大鹿村騒動記」、12年「あなたへ」「のぼうの城」、13年「草原の椅子」「許されざる者」など。次回作は、11月9日公開の「清須会議」(三谷幸喜監督)。父は俳優の三國連太郎(1923~2013年)。

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