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見つめる、触れる 「尊重」伝える介護

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見つめる、触れる 「尊重」伝える介護

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 接し方を変えるだけで、認知症患者が心身ともに良い状態になるというフランス発の介護や看護の手法「ユマニチュード」が関係者に注目されている。相手の目を見て体に触れながら優しく話しかける、といった普通のしぐさを通して「あなたを人として尊重している」との思いを伝える。日ごろの人間関係にも生かせそうだ。

 フランス発の手法

 東京都目黒区の東京医療センター。「温かいね」「気持ちいいね」-。看護師が認知症の70代の女性に顔を近づけ、目を合わせながら絶えず話しかける。その間、別の看護師がシャワーでお湯をかけて体を洗う。いつもは泣き叫んで暴れる女性はうそのようにじっとしたまま。「お湯加減がいいわね」という言葉まで口にした。

 ユマニチュードの語源は「人」と「態度」。体育学を教えていたフランス人のイブ・ジネスト氏らが「人間とは何か」という哲学に基づき約30年前に考案した。「見つめる」「話しかける」「触れる」「立ってもらう」の4つが基本。具体的には、視野が狭い高齢者が驚かないよう正面から近づく、目を合わせる、反応がなくても何をしているか伝える、腕を上からつかまない、立つことや歩くことを手助けする-などがある。

 症状改善、治療に協力

 ジネスト氏は昨年2月、東京医療センターを訪問。半年間寝たきりで全く話ができず、手足の関節が曲がったままになっていた80代の女性の介護を始めると、女性は自分で手足を伸ばし、1時間後には「ありがとう」と言った。

 口の中の炎症で食事ができなかった80代の認知症の女性は、看護師に暴力をふるい、薬を塗ることができなかった。しかし優しく話しかけるなどするうちに口を開けて薬を塗らせてくれた。次からは自分で薬を塗り始め、1週間後には一人で食事ができた。

 東京医療センターがこの手法を取り入れたのは、別の疾患で入院し、何の治療を受けているのか理解できない認知症患者が増えたため。本田美和子医師は「優しさを伝える技術はだれでも学ぶことができる」と話す。手間がかかりそうだが「患者が協力してくれるようになるので、結果的に短時間で仕事を終えることができる。看護師らのやりがいにもつながる」。フランスでは接客業に取り入れる動きもあるという。

 海外発の認知症介護の手法はほかに、患者を否定せずありのままを受け入れる米国の「バリデーション」や、手のマッサージで落ち着かせるスウェーデンの「タクティールケア」などがある。

 バリデーションに詳しい関西福祉科学大の都村尚子准教授(臨床教育学)は「認知症の人は自分がどう扱われているかを敏感に感じ取る。あなたを受け入れ、苦しみを分かち合いたいという気持ちが伝わることが大切」と強調している。(SANKEI EXPRESS

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