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沈む母国「環境亡命」認めて! キリバス男性、NZで世界初難民申請

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沈む母国「環境亡命」認めて! キリバス男性、NZで世界初難民申請

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 太平洋に浮かぶ島々から成るキリバス共和国出身の男性が、家族とともに現在暮らしているニュージーランドの裁判所に、難民としての亡命を求める訴えを起こした。地球温暖化による海面上昇で水没の危機に瀕(ひん)しているキリバスに戻れば、安全に暮らせないというのが、その理由。移民当局に難民申請をしたが却下され、このままでは強制送還されるという。将来的に気候変動によって住むところを失った難民が増大するといわれており、世界初のケースとみられる“環境亡命”の行方に注目が集まっている。

 「帰れば未来はない」

 「キリバスに帰ったら、われわれ家族に未来はない。子供たちを危険にさらすことになる」

 キリバス人男性のIoane Teitiotaさん(37)は、家族の置かれた状況をこう訴えた。オーストラリア放送協会(ABC)は、亡命が認められれば、「気候変動を理由とした世界初の公式難民になる」としている。

 ロイター通信やAP通信などによると、この男性は2007年に妻とともにキリバスから移住し、3人の子供をもうけた。

 しかし、すでにビザは有効期限が切れ不法滞在状態にある。このため移民当局に難民としての亡命を申請したが、却下されたことから、今月(10月)16日にオークランド高裁に不服を申し立てた。

 移民当局は、海面上昇による深刻な状況は認めたものの、差し迫った生命の危機や迫害の恐れはないとし、難民の要件を満たしていないと判断。「他の人たちが海面上昇の危機回避に努力しているのに、彼の申請だけを認めるわけにはいかない」としている。

 これに対し、男性の弁護士は10月16日の弁論で「難民の扱いを定めたニュージーランドの法律は、第二次大戦末期につくられた時代遅れのもので、今日の事情に即していない」と主張。「(キリバスでは)気候変動の影響で、生活できなくなる家族が増えている」と訴えた。

 国連条約も想定外

 島々を合わせて約730平方キロ、人口10万人のキリバスは、海抜が平均2メートルしかない。この20年で海面が約8センチ上昇しており、アノテ・トン大統領(61)は先ごろ、2045年に32の環礁が海の中に姿を消し、50年には首都タラワがある島も沈むとの予測を示した。

 住民の多くが避難して暮らしている高台のタラワは人口過密状態にある。海岸の浸食や下水インフラの不備から水源の地下水に塩水や下水が流入し、真水の確保が困難になるなど厳しい生活を強いられている。

 国連の気候変動に関する機関は先月(9月)、今世紀末には海面が最大82センチ上昇するとの予測を公表しており、専門家たちは将来、環境難民や環境亡命が増大すると警告している。

 ただ、各国の法律だけでなく、国連難民条約も気候変動による難民は想定しておらず、勝訴の可能性は小さいとの見方が多い。オークランド大学のビル・ホッジ准教授は米メディアの取材に、「彼らはNZを脅しているだけだ。法律は個々人のリスクではなく、全体的なリスクに基づき難民を認定している。彼らは強制送還になるだろう」と語った。

 「国民が生き残るため、あらゆる可能性を探している」。以前、本紙の取材にこう語ったトン大統領は、移住を視野に海外での土地購入を決めるなど、対応を急いでいる。(SANKEI EXPRESS

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