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【取材最前線】TPP聖域死守、何を今さら
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何を今さら-。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐる最近の自民党の停滞した議論を見ると、そんな思いが強くなる。
TPP交渉は「例外なき関税撤廃」を原則に始まった。100%撤廃はともかく、参加国の多くが貿易自由化率(全品目のうち関税撤廃を約束した品目の割合)で95%以上を目指していることは、ちょっとTPPに詳しい関係者ならば誰でも知っている。
自民党はコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、甘味資源作物の農産品を重要5分野として「聖域」とした。昨年12月の衆院選と先の参院選の公約でさまざまな表現をしたが、「5分野の関税死守」を約束したと考えるのが普通だ。
ところが、5分野の関税を全部守った場合、自由化率は93.5%にとどまる。TPP妥結のためには日本も「聖域」に切り込むしかない。自明の理なのに、今さら「情報不足だ」と反対する自民党議員は、本音を隠して選挙に臨んだか、何が何でもTPP反対の原理主義者か、勉強不足かのいずれかだ。
石破(いしば)茂幹事長は、TPPに反対する全国農業協同組合中央会(JA全中)が主催した今月(10月)2日の集会で「重要5品目は必ず守る」と断言した。正確には「重要5分野」と呼ぶべきところを「5品目」と表現するから混乱する。
重要5分野は関税分類上、計586品目に分かれる。コメならば、精米、玄米、米粉など58品目に細分化される。ここで一つの理屈が成り立つ。例えば精米だけでも関税を維持すれば、「コメは守った」と言える。
集会の5日後。石破氏は「(586品目の)細目の中で(関税撤廃を)検討するものがあれば検討すると言っている」と語った。前出の理屈が念頭にあるのだろう。だが、党内で「586品目の中での譲歩は既定路線」との認識が共有されたことはない。これを世間では「二枚舌」と呼ぶ。
TPP慎重派は怒り心頭かと思いきや、不思議と石破氏への非難は噴出していない。秘密保持を条件に進むTPP交渉で、石破氏は党を代表して政府と連携しているのに、相変わらず「情報不足だ」の大合唱が続く。今取り組むべきは現実を直視して具体的にどの品目を譲るかの議論のはず。自民党の野党気質が抜けるには、まだまだ時間が必要らしい。(酒井充/SANKEI EXPRESS)