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イラン核開発 高濃縮ウランの製造停止が焦点
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10月15、16日にスイスのジュネーブで開かれるイランの核開発をめぐる国際交渉は、イランが核兵器に転用可能な高濃縮ウランの製造停止に応じるかどうかが焦点だ。米メディアでは、8月に対話を掲げるハサン・ロウハニ大統領(64)が就任したイランが製造停止に応じるとの見方も出ているが、実際にイランがどのような対応を取るかは不透明だ。イランと対立の歴史を重ねてきた米国では、議会を中心にイランへの経済制裁解除に慎重な声が沸き上がっている。ただしオバマ政権は信頼関係構築を狙った経済制裁の一部緩和も検討しており、議会との対立の新たな火だねになる可能性もある。
米国など国連安全保障理事会の5常任理事国とドイツ(P5+1)がイランと行う今回の実務者協議はロウハニ師の大統領就任後初めての会合で、歩み寄りへの期待も出ている。
米ウォールストリート・ジャーナル紙は(10月)9日、「イランが核開発を制限する用意がある」との記事を掲載。イランは会合で、稼働させる遠心分離器の台数を制限することなどに応じる準備があると報じた。また、高濃縮ウランの製造停止やフォルドゥの地下ウラン濃縮施設の閉鎖を提案するとの観測にも触れ、イランが全面的に譲歩する可能性を示唆した。
一方、米メディアでは「イランは米国などからどのような提案がなされるかを待っている状況だ」との見方も残っている。イランのムハンマド・ザリフ外相(53)はイランメディアの取材に対し、米国などが示してきた高濃縮ウランの製造停止などの条件を「過去のものだ」と指摘し、「米国などは新たな観点をもって交渉せねばならない」と述べている。
イランは1970年から核不拡散条約に加盟しているにも関わらず、2003年に国際社会の監視を逃れて核開発を行ってきたことが表面化。06年からはP5+1との間で核開発をめぐる協議を続けてきたが、高濃縮ウランの製造停止をめぐる対立が解けず、イランに対する経済制裁の強化につながる結果に終わってきた。
またイランはこれまでイスラム教シーア派組織ヒズボラやイスラム原理主義組織ハマスに対する武器供与や資金提供を行うなどのテロ支援活動を続けてきた。長期化しているシリア内戦でも化学兵器使用などで国際的な批判を浴びているアサド政権を支援するなど、米国との対立関係は鮮明だ。
対話路線を掲げるロウハニ師は、9月27日にはバラク・オバマ大統領(52)と1979年以来初めてとなる電話会談を行い、核開発は原子力発電などの平和利用が目的だと主張している。しかし米国内では、「イランは中東地域の盟主を目指しており、核兵器保有の野望を捨てたと考えられない」との見方は根強い。原油などのエネルギー資源に恵まれたイランには原発建設の必要性が薄いことも、イランに対する疑念を深めている。
このため米議会からは、イランに対して安易に譲歩すべきではないとの声が噴出している。民主、共和両党の新人下院議員78人は(10月)7日に公開したオバマ大統領への意見書で、「イランが根本的に路線変更するまで経済制裁を強化せねばならない」との対イラン強硬論を展開した。
また上院外交委員会のロバート・メネンデス委員長(59)も経済制裁がイランを交渉のテーブルにつかせたとして、「イランが核開発を積極的に進める限り、圧力を強めるべきだ」と表明。下院は7月にイランへの追加制裁を科す法案を圧倒的多数で可決しており、上院でも同様の法案が提出される見通しだ。
ただしイランに対する強硬論には問題も多い。経済制裁緩和の条件を高くすれば交渉が難航することは確実で、その間にもイランが高濃度ウランの製造を続けて、核兵器保有に近づく可能性もある。また経済制裁の強化を続ければ、イランを経済的にロシアや中国に接近させる結果を招き、米国との対立関係がさらに深まる懸念もある。
このためオバマ政権はイランがウラン濃縮活動で一定の譲歩を示せば、一部の経済制裁を緩和して信頼関係を築き、さらなる譲歩を引き出すことも想定している。ウェンディー・シャーマン国務次官(政治担当)は「イランが検証可能で具体的な行動をとるなら、われわれができることもある」と述べた。
ただしオバマ政権が妥協を急げば議会からの強硬な反発にあうことも予想され、微妙なかじ取りが求められている。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS)