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オバマ大統領 強硬策の末に前進勝ち取る
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バラク・オバマ米大統領(52)が化学兵器を使用したシリアのアサド政権への限定的な軍事行動をちらつかせるという強硬策の末に、アサド政権の後ろ盾であるロシアに化学兵器放棄に向けた対応を取らせるという前進を勝ち取った。ジョン・ケリー米国務長官(69)とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相(63)は9月14日、スイスのジュネーブで、アサド政権が1週間以内に化学兵器の保有状況を報告することなどで合意したことを発表。オバマ政権は最後まで軍事行動という選択肢を手元に残し続け、化学兵器使用は容認できないとの立場を国際社会に打ち出すことに成功したといえる。ただし軍事行動にこだわる姿勢はかえって米国内に根深い戦争疲れがあることも表面化させた。化学兵器の国際管理のプロセスの停滞も想定されるなか、今後も米国の危機対応能力は問われ続けることになる。
「シリアの化学兵器を国際管理下におき、最終的には破壊するという目標に向けた重要ではっきりとした一歩だ」。オバマ氏は14日、米露外相会談の結果を歓迎する声明を発表した。
米露外相会談では焦点だったアサド政権が化学兵器の保有状況を報告する時期を、1週間以内とすることで合意した。オバマ政権側は会談初日の(9月)12日から、アサド政権が化学兵器禁止条約に基づき、11月上旬ごろの報告を想定しているとみられることに強く反発。ロシアはこの反発を受け、オバマ政権に足並みをそろえる形でアサド政権に早期の行動を促したことになる。
ロシアがアサド政権に化学兵器の国際管理を受け入れさせようとしているのは、オバマ政権による軍事行動にある程度の現実味があるとみて、アサド政権維持のための対応が必要だと判断したからだ。オバマ政権が想定しているのは地上軍の投入を伴わない限定的な軍事行動だが、それでもアサド政権の弱体化につながる可能性が高い。この場合、反体制派に加わるテロ組織が勢いづきかねず、ロシア国内でのテロ活動が活発化することも懸念されていた。
このためウラジーミル・プーチン大統領(60)は9月12日付の米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、国連安全保障理事会決議に基づかず、自衛目的でもない軍事行動は「国際法に違反する」との立場を強調して米国の軍事行動を牽制(けんせい)した。しかしオバマ氏は最後まで軍事行動という選択肢を捨てることはなく、ロシアはアサド政権に譲歩させることで事態の収拾を図ったとみられる。
今後、化学兵器の国際管理が進めば、オバマ政権は化学兵器の使用で約1400人の犠牲者を出したアサド政権に一定の制裁を加えることになる。またイランや北朝鮮、国際テロ組織アルカーイダなどに対しても化学兵器使用には代償が伴うことを示すことになり、化学兵器使用の抑制につながる対応をとれたともいえる。オバマ氏にとっては思惑通りの結果だ。
一方、オバマ氏が限定的な軍事行動のために議会の承認を求めるという手続きをとったことで米国内の軍事行動への反発が表面化したことは、オバマ氏にとっては想定外の結果だった。
オバマ氏は化学兵器使用で多数の子供が死亡したことや、化学兵器が自動車爆弾のようにテロリストが通常の攻撃手段として使う武器となる可能性を訴え、国内世論に軍事行動の正当性を訴えた。しかしオバマ氏が満を持して(9月)10日に行ったテレビ演説も世論の軍事行動への反発を和らげることはできず、米メディアでも「議会が軍事行動を承認しないことはほぼ確実」との論調が浸透した。このため仮に米露外相会談が決裂していれば、オバマ氏は議会承認なしの軍事行動という難しい決断を迫られて立ち往生した可能性もある。
オバマ氏がこうした窮地に追い込まれる懸念は現在でも払拭されたわけではない。今後、アサド政権が化学兵器の保管状況の報告を遅らせたり、一部の化学兵器を隠匿しようとするなどの非協力的な態度に出れば、オバマ氏は化学兵器の使用拡散を食い止めるために再び軍事行動に向けた手続きを進めざるをえなくなる。この場合の米世論の動向は不透明だが、やはり軍事行動に消極的な意見が多数を占めることも考えられる。
今回、オバマ氏がとった強硬策は相手側が妥協に応じることで一定の成果を上げたが、その過程では、仮に妥協を得られなかった場合の反動の大きさも想起させたといえる。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS)