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オバマ大統領の危険な賭け

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オバマ大統領の危険な賭け

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 バラク・オバマ米大統領(52)は8月31日、内戦が続くシリアのアサド政権に対する軍事行動を取るため、議会の承認を得る手続きを取ると表明した。しかし、米軍の「最高司令官」としての大統領に事前に議会の承認を義務付ける規定はなく、承認が得られなかった場合、「動けない米国」の実態を露呈するリスクを伴う。実際、「多くの人が決断を議会に委ねることに反対した」とオバマ氏自らが認めるように承認を得られるかは不透明な情勢であり、大統領の「ギャンブル」を問題視する声が上がっている。

 挙国一致を狙う

 オバマ大統領は(8月)31日、ホワイトハウスで会見し、「アサド政権に対して軍事行動を取るべきだと決断した」と表明。そのうえで「軍事行動のための承認を議会に求める。承認を得ることにより米国はより強くなり、われわれの行動もより効果を発揮する」と、挙国一致体制を示すことの有効性を強調した。

 オバマ政権は(8月)30日、アサド政権による化学兵器使用で子供426人を含む1429人が死亡したとの調査結果をまとめた報告書を公表。報告書は、ダマスカス郊外の少なくとも12カ所に対してロケット攻撃が行われ、現地の映像や証言、犠牲者の症状などから、神経ガスが使われたと断じた。ロケットの発射地点はアサド政権の支配地域で、3日前からガスマスクを使うなどして攻撃準備が進められていたと分析。国連の調査団が証拠を集めることを懸念したアサド政権高官の会話も傍受したともしている。

 ダブるイラクのケース

 ジョン・ケリー国務長官(69)は(8月)30日、国務省で記者団を前に声明を発表し、報告書の内容に触れ、「これがアサドがシリア国民に対して行ったことだ」と断定した。しかし、米国内では、この報告書の信憑(しんぴょう)性を疑問視する声がある。民主党のジム・マクデルモット下院議員(76)はケリー氏の声明について、「(イラク戦争開戦前に)コリン・パウエル国務長官が全く同じことを言ったのを思い出した。彼らはすべてを知っているかのような態度をとっている」と指摘した。

 米国が2003年、イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を保有しているとする情報分析をもとに、国際社会に「武装解除」の必要性を訴えて開戦に踏み切ったが、戦後の調査で「大量破壊兵器は見つからなかった」と結論づけられたことを踏まえた批判だ。

 オバマ政権は、イラク戦争時と異なり、今回は実際に化学兵器とみられる被害にあった人々の映像がインターネットなどを通じて広く公開されていることなどを指摘し、大量破壊兵器の存在自体が確認できなかったイラクのケースとは根本的に違うなどと主張して議会の理解を求めていく考え。また国連安全保障理事会がロシアの反対で強い態度を打ち出せないことを踏まえ、「国際規範への違反に制裁がないと思われれば、人々は制裁を真剣に受け止めない」などと訴えて、米国が行動を起こすことへの理解を求める構えだ。

 与野党から反対の声

 しかし、オバマ氏の期待にもかかわらず、議会が軍事行動を承認するかどうかは不透明だ。野党・共和党では他国への軍事行動に否定的な草の根保守運動「ティーパーティー(茶会)」の支持を受ける議員らの反対が見込まれる。

 

 また軍事行動に前向きなジョン・マケイン上院議員(77)とリンゼイ・グラム上院議員(58)も(8月)31日、限定的な軍事行動ではアサド政権優位の戦況を覆せないとして「賛成できない」との立場を表明した。ピーター・キング下院議員(69)は「オバマ氏は自らの責任を放棄し、大統領の権限を傷つけている」と批判。大統領が軍事行動を判断する際には「議会の判断は必要ではない」と指摘した。

 民主党でもカール・レビン上院議員(79)が、「反体制派へのより効果的な武器の供与」を求める声明を発表し、ミサイル攻撃などの軍事行動には反対する意向を示唆。反戦リベラル派議員たちもシリア攻撃には反対姿勢を取っている。

 仮に議会が化学兵器を使ったアサド政権への軍事行動を承認しなかった場合、イランや北朝鮮、テロリストなどに対しても「化学兵器使用を認める」という誤ったメッセージを流しかねない。そうなれば米国はもちろん世界中の安全保障に影響が及ぶことになる。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は(8月)31日、オバマ氏が判断を議会に委ねたことについて、「これまでの任期中で最もリスクが高いギャンブルに出ている」と報じた。(ワシントン支局 小雲規生/SANKEI EXPRESS

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