物価が下がることはデフレを意味し、一般に経済にネガティブな影響を与える。企業収益の落ち込みは、投資抑制・人件費削減と失業率増加を招き、結果として消費も落ち込み、一段と物価が下落する悪循環、デフレスパイラルに陥る可能性もある。日本も「失われた20年」に表されるように長年苦しんできた。それでは、物価上昇を意味するインフレを手放しでは喜んでよいのか。需要側に起因するデマンドプル型か供給側に起因するコストプッシュ型かを見極める必要がある。
デマンドブル型では給与増など社会全体の経済活性化が見込めるが、コストプッシュ型では原材料価格の高騰によるもので物価だけがあがる。新型コロナウイルス感染症の縮小は需要増を招いたが、急激な需要増・大規模金融緩和・物流などパンデミックに伴う混乱の継続によりコストプッシュ型インフレとなり得る。加えて、脱炭素化が相まって資源高(皮肉にも燃料高も)、異常気象が相まって穀物高など、コモディティ価格の上昇に歯止めがかからない。企業努力やステルス値上げ(シュリンクフレーション)で耐えられなく日本でも、次々と様々なものが値上げされており、実生活でも体感している。むしろ、ネガティブな物価上昇により実質賃金の一段の低下さえ考えられるのだ。
それでは、名目賃金の上昇はどうか。景気状態は、いざなみ景気に迫る、好景気とされ「アベノミクス景気」と称されたほどだが、実感はない。現に、企業の経常利益・従業員給与・利益剰余金推移(出所:法人企業統計調査e-Statより筆者作成。全産業(金融業、保険業を含む))をみると、好景気をうけ、利益が拡大する一方で給与の増加は殆どみられない。
利益を元手に先行投資の積極化や株主還元を強化すべきという議論は別として、利益が従業員に十分に還元されず、有事に備えた利益剰余金(内部留保)を加速度的に積みあげていることは事実だ。この莫大な利益剰余金の使途・配分次第では経済活性化と賃金上昇の両方に期待できよう。ただ残念ながら、現状では大きな変化はみられない。
その他に実質賃金上昇には、労働生産性・交易条件・消費者の価値観など課題が山積みだ。このようにみると、今後も実質賃金の伸びは期待しづらいうえに、より厳しい状況させ想定される。社会の動きに敏感な若者こそ、会社からの給与のみでは生きていけないことを薄っすらと感じているのかもしれない。だからこそ、金融リテラシーを若くから養い、「ゆくゆくは給料と投資収入の二足の草鞋にして、病気や老後に備えたい」という発言に結び付いたと推察する。
若者が投資する意義とは
これまでの観察を踏まえ、一般には資金が少ない若者が投資をする意義についてみていこう。もちろん資金が少ない以上、稼ぐ手段にはなり得ないが、若さという時間を武器に「複利」効果を最大限享受でき、銀行の預金金利を考えれば賢い選択だ。資金が少ないからこそ、万が一失敗しても容易にリスタートも可能だ。というのが一般論で、「老後の備え」「人生100年時代」を念頭においた資産形成は長期的な目標であるのは事実だが、学生が熱中するのは勉強になる、スキルが身につくからにほかならない。