生命保険は加入する種類によって、支払う保険料を損金計上できるか否かが変わります。損金割合の高い一方で、解約時に多額のお金が戻ってくる保険を「節税保険」と表現しますが、中小企業を中心にニーズがあるようです。保険料の一部が損金となり、法人所得の減少から納税額を減らす効果が期待されます。長期にわたり契約することが前提の取り組みです。
このような話を、財務状況を開示し優越的な取引関係にある銀行や、顧問先の税理士から提案されたら、自社にメリットのある仕組みと誤認する経営者が出てきてもおかしくありません。
■経営者の知識不足が状況を悪化させる
筆者が過去に確認した事例ですと、問題と思える会社がいくつもありました。
例えば、売上が1億円で利益(所得)が500万円程度であれば、法人税率が低い所得区分となります。それに関わらず節税保険に加入。保険加入による節税効果が保険会社の見積もりよりも低く、実質的に損をしている会社がありました。
他にも、利益が出ているときに顧問税理士が保険代理店として提案する生命保険に加入したものの、数年後に赤字に転落、以降赤字が続いているのですが、生命保険はそのまま加入を継続していました。本来、赤字のタイミングで解約したり、何らかの手当を行うのです。赤字であれば節税効果の意味はありません。掛け捨ての安い保険にかけかえたほうが資金繰りが良いはずですが、銀行から多額の融資を受けており資金が潤沢にあるため、保険の見直しをせず、無駄な資金を流出させていました。
■胴元は損しない会社契約の生命保険
会社が損金性のある節税保険に加入する場合、払った保険料から解約時に戻ってくる資金の割合を計算した、単純返戻率という考え方があります。もう1つ、税効果を加味して節税額を効果額として加えて、実質返戻率という数値もあります。
単純返戻率だけ見てみれば、保険会社に払う保険料以上のお金は戻りませんから、保険会社は常に儲かる状態です。ということは、それを提案している銀行、税理士、保険会社、保険代理店なども利益を得ていることになります。
一方で、実質返戻率は、長期間黒字であることを前提としてシミュレーションであるため、直近のコロナ禍における経営不振などの場合は、一切考慮しません。
生命保険による節税は一度取り組むと毎期継続しなければならない依存性の高い仕組みです。企業経営にとってプラスになるならともかく、多くの場合は単に納税を先送りするだけで、起業の財務体質を強化するに至りません。